大人になったらやると思っていたこと

僕が子どものころ、日曜午前中のテレビは父親のものだった。映っていたのはゴルフ中継。僕を含めた父以外の家族はまったく興味はなかったが、楽しそうな父を押しのけてまで見たい番組もなかったので誰もなにも言わなかった。

当時の大人(特に男性)にとってゴルフはスタンダードな嗜みだった。少なくとも僕にはそのように見えていた。親戚が集まればオジサンたちはしょっちゅうゴルフの話をしていたし、TV番組でゴルフの話をする芸能人もよく見た。

子どもだった僕にとってゴルフは退屈なスポーツに見えたけど、漠然と(大人になったらやるんだろうな)と思っていた気がする。

(大人になったらやるんだろうな)と思っていたことは他にもいろいろあった。酒、タバコ、麻雀…スーツを着て会社に行き、家庭を持ち、休日には家族でドライブに行くとか。当時はそんな言葉は知らなかったけど、あたりまえの大人になるための「通過儀礼」のように考えていたのかもしれない。

それから数十年、年齢的には大人になったが、当時思っていたようなあたりまえの大人にはなっていない。タバコはずいぶん前にやめてしまったし、お酒は弱い。麻雀は一時期夢中になったが、今やルールも思い出せない。会社勤めもしなかったし、車の免許も取らなかった。仕事のジャンル的に僕がやや少数派の側にいるというのもあるが、世の中も変わった。

幼いころは「世の中が変わる」なんて想像もしていない。自分が物心ついてから数年を知っているだけの世の中が、ずっと続くと思っている。おそらく僕の父世代も、自分たちが子供のころに思い描いていた大人にはならなかったのではないか。

ゴルフに関していえば、日本が豊かな時代の一過性のブームだったのだ。もちろん今でも多くのファンやプレイヤーがいることは知っているけれど、あの時代から考えれば、そして僕の周りに関していえば、少数派だ。

現在、多くの人がスタンダードだと思っていることも、数十年後からみれば案外「一過性のブームだったね」ということがあるかもしれない。数十年後、「僕らの父親世代は薬を飲んでまで髪の毛を生やそうとしていたんだぜ、歳を重ねたら容姿が変化していくのはあたりまえなのにね」と息子たちが笑っているかもしれない。

文/トリバタケハルノブ