「われわれは物流会社になる」──
柳井氏による発言の真意
いまから8年ほど前(2016年)のことです。「ユニクロ」や「ジーユー」を国内外で展開するファーストリテイリングの会長兼社長である柳井正氏が、「われわれは物流会社になる」と社内会議で激しく訴えました。
実際に2020年11月には、ファーストリテイリングは定款に「倉庫業及び倉庫管理業」「運送取次事業」などを追加し、本格的な物流事業の展開を可能にしました。
もちろん、物流会社に業態転換するという意味ではありませんが、それくらいの機能を有するアパレル企業へと成長するという意気込みを感じさせます。
ご存じのように、同社のビジネスモデルは、商品企画・デザインから工場生産、店舗販売まで自社で一手に担う「SPA(製造小売業)」です。高品質・低価格を武器に世界市場から支持を集め、直近の決算(2023年8月期)では売上高2兆7000億円を超え、今期は3兆円に達する見込みです。
その同社がなぜ、わざわざ「物流会社になる」と社内を鼓舞する必要があるのか?
実は、柳井氏は「ファーストリテイリングは物流会社を目指す」と宣言する前から、「物流を本業としないグローバル企業が物流会社になる」と発言していました。
きっかけは世界最大のEC企業、アマゾンの台頭です。
ファーストリテイリングは、世界のトップ企業をお手本としながら成長してきました。いまや、アマゾンが世界でも有数の物流会社であることは、誰もが認めるところです。
柳井氏は、アマゾンの成長をモデルに、ファーストリテイリングをアップグレードしていきました。SPAモデルではギャップ、ファストファッションではザラを展開するインディテックスなどをモデルとしていますが、物流における成長モデルとしてはアマゾンを意識しているのです。
ファーストリテイリングは、自社ECからの配送が受注から1週間近くかかっていた頃は、アマゾンの物流を利用できるマーケットプレイスで人気商品を販売していました。しかし、アマゾン並みの翌日配送、店舗でのEC商品の受け取り、さらには店舗スタッフによるラストワンマイル配送が可能(一部店舗)になると一転。
売れ筋データの流出を避け、マーケットプレイスでの販売を中止しました。
2023年8月期の決算説明会で、柳井氏は次のような主旨の発言をしています。「売上高5兆円の道筋は見えた。あとはこれを2倍にするだけで、目標とする売上高10兆円を達成できる」と。
しかしながら、ファーストリテイリングが「物流会社になる」と発言した真意は、売上拡大だけではありません。
売上目標達成よりももっと先、アマゾンのように世界中にある商品をムダなく、自由自在に動かし、必要とするタイミングで、顧客の手元に届けることを可能にする物流機能をもったグローバル企業を目指しているのだと、私は考えています。