外面の良い夫が明かした「裏の顔」

 問題は二度目の結婚だ。この時、ハルカさんは実家を出て東京で暮らしていた。

「二番目の夫は私より15も年上の人でした。その人ともクラブで知り合って……。音楽仲間の先輩みたいな感じで、とにかく明るいし面倒見も良いんです。みんなから兄貴扱いされていました。でも、要するに“外面が良い”ってやつです。
 結婚生活の最初は特に問題はなかったのですが、ある日家に帰ってきたら、部屋が真っ暗の中にポツンと元夫が座っていて。『どうしたの?』と聞いたら『自分はうつ病なんだ』と言い始めて。それなら精神科に行ったほうがいいと勧めたのですが、以前精神科であまりいい思いをしていないから行きたくないと。で、結局病院に行ったら、うつ病ではなくて双極性障害だったんです。
 その辺りからどんどん言動が攻撃的になっていきました。私は普通にニコニコして彼の話を聞いているだけなのに『お前のその笑顔が人を不快にさせる! 馬鹿にしてんじゃねぇ!』と怒鳴られて。私、そんなに人を不快にさせていたのかとその時は真に受けてしまいました」

 夫は仕事をやめたが、相変わらずクラブには遊びに行くし、飲みにも行くし、ハルカさんに暴言も吐く。ある時は任侠映画の事務所に出てくるようなガラス製の灰皿を投げつけられたこともあった。明らかにDVだが、夫は「当たっていないからDVではない」の一点張りだった。他にも、間違って彼の枕を踏んでしまった時「こいつは枕を足蹴にするような女だ」と知り合いに言い触らされたり、たった一回だけ、うっかり台所の三角コーナーのゴミを片付けずに出かけてしまった時「こいつはゴミを溜めっぱなしにして家事もまともにできる女じゃねぇ」と罵声を浴びせられた。たった一回のミスをあげつらい、こいつはダメ人間だから俺が世話してやっているのだと周りに吹聴していた。

「きっと、周囲の人から見たら私はすごくだらしなくて一人では決して生きていけないような女で、夫が面倒をみてやってると思われていたんでしょうね」

 ある時、ハルカさんは持病の手術のため実家近くの病院に入院し、退院後も1ヶ月は安静にしているよう医師に言われて実家で静養していた。そんな時、突然東京にいる夫から「お前、とっとと帰ってこないとこのネコぶち殺すぞ!」と、ハルカさんが飼っているネコを殺してやると電話がかかってきたのだ。安静にしていなければならなかったが、ネコを殺されたくなかったので慌てて東京に戻った。

「それまでもネコを逆さ吊りにされて虐待されたことがありました。実は何回かこのDV夫からネコを連れて逃げているんです。当時はDVシェルターの存在も知らなかったので友人の家に逃げていました。でも、そのたびに見つかって連れ戻される。外面が良いので、夫が共通の友人たちに『ハルカちゃんがいなくなっちゃった!』と連絡をすると、周りの友人たちはまさか夫がDVをしているとは思わないので、私の居場所を教えちゃうんです。外堀を埋めるのがうまいんですよね」

 また、冒頭にも書いたように、ハルカさんには現在小6になる息子がいる。息子さんはこのDV夫からの性暴力でできた子だというが、子どもに罪はないので、産むことを決意したとハルカさんは語る。
 夫は妊娠中もモラハラやDVを続け、子どもが生まれても一切育児をしなかったが、周りにはオムツ替えと入浴は自分が担当しているなどとホラを吹いていたという。相変わらず夫は働かず、ハルカさんはワンオペ育児と在宅の仕事でボロボロになっていった。

DV夫から子どもを守る! 必死に逃げた発達障害母の壮絶半生_1
イラスト:にくまん子