「1500円の焼き肉食べ放題」を喜んで食べた琴ノ若

琴ノ若といえば、父親が元関脇・初代琴ノ若にして、師匠ともなる13代佐渡ヶ嶽親方、母方の祖父が第53代横綱・琴桜(2007年8月14日に66歳で死去)という親子三代にわたっての角界のサラブレッド。新大関として迎えた今季春場所は、二日目に朝乃山、五日目に宇良に敗れつつも、順調に白星を重ねている。

幼いころから「力士」になるべく、祖父と父の薫陶を受けた新大関だが、その原点は親元を離れて寮生活で汗を流した埼玉栄中学、高校の相撲部に突き当たる。1988年に監督に就任し、同校を全国屈指の名門校に育て上げた山田道紀(やまだ・みちのり)監督(58)が、集英社オンラインの取材に応じて高校時代に琴ノ若が覚醒することとなった秘話を明かした。

埼玉栄相撲部・山田道紀監督(58)
埼玉栄相撲部・山田道紀監督(58)
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琴ノ若傑太(ことのわか・まさひろ)こと鎌谷将且(かまたに・まさかつ)が父親の佐渡ヶ嶽親方、母親の真千子さんの元を離れ、山田監督夫妻が切り盛りする埼玉栄中相撲部に入部したのは2010年のことだった。相撲部屋に生まれ、裕福な家庭で育った鎌谷少年に山田監督がまず教えたことは、日常生活での「礼儀」だった。

「もちろん、全員ではありませんが私の経験上、お相撲さんの子どもは、裕福な環境で育ってた子が多いですから、少し世間ズレしているところがあるものなんです。ですから、私は例えば先輩やお世話になっている方々からジュース1本でも買ってもらったら、必ず『ありがとうございました』と言いなさいと、そういう当たり前のところから教えました。

ただ、琴ノ若に関しては、ご両親、おじいちゃん、おばあちゃんの教えがいいんでしょう。最初からそういった感謝の気持ちを持っていた子どもでした。忘れられないのは、ある日、私が部員を1500円の焼き肉食べ放題の店に連れて行ったことがありました。琴ノ若はそれまで相撲部屋で育った子どもですから、もっと高額な牛肉なんかを食べて育ってきたはずなんです。

だけど、1500円の食べ放題の肉もすごく喜んでおいしいと食べていました。そんな姿を見て、私はこの子は素直で感謝の気持ちを持っている子だなと感じたことを思い出します」

山田監督が生徒を指導する上で重視するのは、練習や試合での勝ち負けよりも、こうした日常生活での「礼儀」だ。

「強くなるために大切なことは『素直さ』なんです。この大切なことを培うために必要なことは礼儀作法です。私はそこは練習以上に厳しく指導しています」