一作で全世代に届く男性向けマンガ
少年誌と少女誌には、大きく違うところがありました。
少女誌は、読者の年代別にたくさんの種類があるのに対し、男性は、小学生も30代も、同じ雑誌を楽しめます。「少年マガジン」は、ほとんど全世代の男性が手に取っていました。
あるとき、ものすごく眠くて「ダメだ、15分だけ寝よう」と思って、横になって寝るまでの2~3分で本を読もうと、そこにあった「少年マガジン」に手を伸ばしたら、雑誌の最後に「今週号であなたが一番気に入ったのはどのマンガのどのシーンですか?」というアンケートがありました。
それが気になったので、編集部に「あのアンケートの年代別の好みを知りたい」とお願いしたのです。そうしたら「年代別は関係ないのです」と言われました。「えっ、どうして?」と思いますよね。
その理由は「小学生でも高校生でも大学生でも、30代の大人でも、だいたい読者が気に入ったシーンは決まっていて、年代ごとの差はない」からだとか。「どんなシーンですか?」と聞いたら、「戦いに勝ったシーンです」だそうです。
笑ってしまいました。でも大人になっても子どもの頃と同じ「戦いに勝ったシーンがいい」と素直に言えるのは素晴らしいとも思いました。
簡単にいえば、男性はいつまでも子どもの頃と同じ感覚を持つロマンチストなのですね。
女はリアリストなので、手に入らない夢は見なくなるのです。手に入りそうな夢には頑張るし、目の前の現実に関心がある。だから年代ごと、置かれた立場ごとに一番気になる事柄が違ってきます。
私がよく仕事をした講談社のマンガ誌を例にすると「なかよし」は小学生向けだから友情や親子関係、「少女フレンド」では中学生向けに初恋、高校生以上が読む「mimi」では恋の葛藤、「ヤングレディ」や「BE・LOVE」では離婚や不倫など、雑誌ごとにマンガを描き分けていました。
常々、男女は平等であるべきだと願っている私ですが、この2つの性の精神構造には、無視できない違いもあるのかもしれません。むろん、性を男女2つだけに分けて考えるわけにはいかないし、多くの人が、男女両方の要素を持っていると思います。
それに今は、ウェブで発表される作品も多く、男の子向け、女の子向けなどターゲットを明確にしない作品が増えたので、それはすごく気持ちがいいです。
一方で、昔ながらの少年マンガは、男の子を理解するとても分かりやすいツールでした。男の子は「どうしたら勝てるんだろう」と考え、たとえ叶わない夢に向かってでも頑張れるのです。
女の子は「この戦いはなんのためにやるのか、戦わないほうがいいのではないか」とあれこれ考えます。世の中全員が女性だったら、間違いはないかもしれないけれど、無駄を排除してしまうので、潤いがなくなってしまうし、男性ばかりだと、ロマンと意地のぶつかり合いで立ちゆかなくなってしまう。うまくできていますね。
男と女がいることにも、ふたつの性には分けられない人がいることも、意味があるはずです。きっと、お互いがお互いを分かり合うために存在する、世の中のことはすべてそうなんだと思います。