まさかの同点トップも、
みなさんの言葉に救われた

Mリーグ20日目、第2戦。今でも思い出したくないそのミスは、この対局のオーラス1本場に起こりました。

私は、2着目の小林剛*さんと1万7600点差のトップ目。剛さんに8000点を放銃*しても、1本場*の300点を足して1万6600点しか縮まりません。つまり、「1000点差でトップが取れる」状況でした。

しかし、その道中にラス目の魚谷侑未*さんからリーチがかかり、リーチ棒1000点を場に出します。「剛さんに8000点を打っても大丈夫」。そう思い込んでいた私は、安全な牌があるのにもかかわらず、剛さんに8000点を放銃。リーチ棒の1000点分が上乗せされて、まさかの同点トップになりました。

このとき、卓上で「違うか、間違えちゃった」とつぶやいたそうですが、気が動転して頭が真っ白になっていた私には、そのときの記憶がほとんどありません。それどころか、対局後インタビューの直後に過呼吸を起こして、体が動かなくなってしまったのです。その後に予定されていたLINEライブも、出席できませんでした。

「同点でもトップだからいいじゃん」「勘違いは誰にでもある」。そう思われるかもしれませんが、それまでの2か月間で追い詰められていた私は、その出来事によって、張りつめていた糸がプツンと切れたような感覚になりました。

そんなとき、手を差し伸べてくれたのは、同卓者のみなさんやチームメイト、そして連盟の先輩方でした。

3着・4着だったにもかかわらず、気が動転している私に「大丈夫だよ」と優しい言葉をかけてくれた黒沢咲*さんと魚谷さん。

「プロはミスを見せるのが仕事だ」と気づかせてくれたうえに、「ぼくも昔、赤五筒を切っているのに、五筒でロンって言ってチョンボ*したことがあるよ」と自身のミスをユーモア交じりに語ってくれた剛さん。

非難せずに笑って迎え入れてくれて、「ゆっくり休んでいいよ」と言ってくれた沢崎さん、内川さん。そのほかにも、連盟の先輩方からたくさんの温かい言葉をかけていただきました。

「裏ではいくらでも落ちこんでいい。でも、カメラの前では絶対に下を向くな。見ている人を心配にさせちゃいけない。機械でも、わけのわからないフリーズするんだから、自分のミスをあまり責めすぎるな」

萩原聖人*さんがかけてくれた言葉は、今でも忘れられません。

「モデルとして売れなかったから麻雀プロになった」Mリーガーになった岡田紗佳を苦しめたSNSでの誹謗中傷。「実力がないのに、モデルだからプロになれた」とも言われて…_3
すべての画像を見る

また、とある対局の解説で、藤崎智*さんが「麻雀はメンタル。自分自身との戦い」とおっしゃっているのを聞いて、ハッとさせられました。解説のなかでのふとした言葉ですが、そのときの私には深く心に響いたんです。「技術の向上だけでなく、感情のコントロールも麻雀プロにとって必要なスキルなんだ」。そう気づかせていただきました。

今、こうして精神が安定して麻雀プロを続けられているのは、たくさんの方たちの支えがあったからです。みなさんが私にかけてくれた言葉は、当のご本人が覚えていなくても、私はずっと覚えています。

この先、もしも誰かのミスによってどれだけ大きな損失をこうむろうと、私がしてもらったように、優しく声をかけられる人になりたい。心から、そう思いました。


*張敏賢
かつて最高位戦日本プロ麻雀協会に所属していた麻雀プロ。2018年からMリーグの公式審判を務めている。

*沢崎誠
日本プロ麻雀連盟所属の麻雀プロ。Mリーグでは、2019~2022年までKADOKAWAサクラナイツに所属。その老練なテクニックから「マムシ」の愛称で親しまれる。

*内川幸太郎
日本プロ麻雀連盟所属の麻雀プロ。「手順マエストロ」という異名を持つ。MリーグではKADOKAWAサクラナイツに所属し、現在はリーダー的な立ち位置。

*打牌
ツモを行った後に、持っている牌から1枚を捨てる(手放す)こと。

*丸山奏子
最高位戦日本プロ麻雀協会所属の麻雀プロ。かつてMリーグ・赤坂ドリブンズに所属していた。「まるこ」の愛称で親しまれ、岡田さんとも仲良し。

*ヤミテン
闇聴。メンゼンでテンパイしている状態でリーチせずに黙っている状態を指す麻雀用語。ダマテン(黙聴)とも言う。

*小林剛
麻将連合-μ-に所属している麻雀プロ。Mリーグでは、U-NEXT Pirates所属。対局中は感情をほとんど表に出さないことから、「ロボ」と言われることも。

*放銃
自分の打牌により他のプレイヤーがロンアガりすること。

*一本場
場に積まれている「積み棒」を表す単位ですのこと。親が連続でアガったり、流局すると本場数が増える。ルールによって違うが、Mリーグでは積み棒1本あたり300点が加点される。

*魚谷侑未
日本プロ麻雀連盟所属の麻雀プロ。Mリーグではセガサミーフェニックスに所属している。数多くのタイトルを持つ、女流プロ屈指の実力者。

*黒沢咲
日本プロ麻雀連盟所属の麻雀プロ。MリーグではTEAMRAIDEN/雷電に所属している。その優雅な風貌や、低い打点に目もくれず高い打点を目指す戦法から「セレブ」と呼ばれている。

*チョンボ
麻雀における反則行為全般のこと。

*萩原聖人
俳優。日本プロ麻雀連盟に所属する麻雀プロでもある。Mリーグでは、TEAM RAIDEN/雷電に所属している。Mリーグでの愛称は「雪原の求道者」「リアルアカギ」。

*藤崎智
日本プロ麻雀連盟に所属する麻雀プロ。元KONAMI麻雀格闘倶楽部所属。ヤミテンを多用することから「忍者」という愛称が知られている。


写真/書籍『岡田紗佳 1stフォトエッセイ おかぴーす!』より

#1 上には上がいると知ったnon-noモデル時代
#3 岡田紗佳役満ボディのメンテナンス術

岡田紗佳 1stフォトエッセイ おかぴーす!(KADOKAWA)
岡田紗佳
「モデルとして売れなかったから麻雀プロになった」Mリーガーになった岡田紗佳を苦しめたSNSでの誹謗中傷。「実力がないのに、モデルだからプロになれた」とも言われて…_4
2024/2/20
2,200円
192ページ
ISBN:978-4048976985
岡田紗佳のフォトエッセイが初解禁!文章と写真がせめぎ合う攻防戦!Mリーグ、芸能界で闘い続けるプロ雀士岡田紗佳の“20代の記録と記憶”。
amazon