やはり停職3ヶ月というのは甘すぎる

その美術教師は「校内に味方となる人はいない」と判断し、市の教職員組合に相談したが、まともに取り合ってもらえなかったという。

「パワハラの記録をつけたり、周囲の証言を集めることを求められたりしたようですが、これらには手間がかかりますし、何より、主幹教諭の報復が怖くなったそうです。結局は泣き寝入りしたそうですが、この職場では同様のケースは多いと思います。

何が怖いかって、私のいた学校はいまだに住所録が存在していて、すべての教諭の住所が閲覧できるんです。それに教師は一般企業と違ってテレワークもないですし、一緒に過ごす時間も長いので嫌な一面を見ることも多い。そうなるといじめやパワハラがあってもやり過ごしたり、スルーするのが当たり前の風潮があります」

そのため、パワハラ問題で弁護士に相談する教諭も少なくないという。学校問題を多く取り扱うレイ法律事務所の髙橋知典弁護士は言う。

「私が相談を受けた事例は30代の女性教師でした。力を持った先輩男性教師から、生徒の監督ができていないなどと強い指摘が繰り返されるばかりか、『あなたは無能だ』と口頭で人格否定までされ、結果的に担任を外されてしまいました。その女性教師は心療内科に通い、休職することとなりました」

今回の宮城県教育委員会の処分についてもこう述べる。

「同僚に対してパワハラをする人間が、はたして子どもに対して『いじめはいけない』と指導することができるのか、という問題があると思います。自らパワハラしてしまう教諭には、子どものいじめという繊細な問題を対処することはできないでしょう。やはり停職3ヶ月というのは甘すぎるのではないかと思います」

宮城県庁
宮城県庁

一般社団法人クレア人財育英協会の理事で雇用クリーンプランナーの大田勇希氏は言う。

「納得できないのは今回の県教委の懲戒処分の考え方です。2019年5月のパワハラ防止法成立をはじめ、2022年4月からは全企業でパワハラ対策が義務化されていますが、教育委員会ではパワハラに免職規定を設けていません。

さらに今回の事件では、3年4ヶ月もかけて出した結論が、当時の原案基準を適用した『妥当な処分と考えている』という自己本位ともいえる見解で、時代に見合った対策が取れていないことを自ら明らかにしているといえます」

宮城県教委は今月13日、臨時の県立学校長会議を県庁で開き再発防止の対策を示すというが、教育現場において教職員同士のいじめやパワハラはいつになったらなくなるのだろうか。

文科省
文科省
すべての画像を見る

※「集英社オンライン」では、今回の“事案”をはじめ教育現場での“パワハラ”“セクハラ”“いじめ”について、情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(Twitter)まで情報をお寄せ下さい。
メールアドレス:
shueisha.online.news@gmail.com

X(Twitter)
@shuon_news  

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班