人間は「死」を排除しようとしてきた

でも、こんなことも言えるかもしれない。人間は自分らがやがて到達する「死」を知っているだけに非常に「面倒」な生物になってしまった。「死」を恐れ、自分に「死」をもたらす可能性のあるものをどんどん考えていき、それを排除しようということが人生の最優先テーマということになる場合もある。その思考で繰り返されてきた巨大な災い行為のひとつが「戦争」だろう。

やがてくる確実な「死」への到達を知らなかったら、もっと好きなように自由に思ったとおりに生きていけるかもしれない。自分の「死」も他人の「死」もさして気にせず、そして悩むこともなく毎日が安楽でここちいい。

人間とそれ以外の生物との決定的な違いは、「自分がいつか死ぬ」ということを知っているか否か〈椎名誠が見た命の風景〉_3
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人間はひとつのその状態を「天国」と考えた。死んだあとそういう幸せそうな天国に行くための方便のひとつが宗教だったかもしれない。そういうものがからんでくると人間の「生」と「死」の周辺はますます複雑になっていき、その思考は今日までゆるぎなく継続しさらに際限なく複雑化している。