あまりにロマンチックな風景を前に突如発動した、わたせせいぞう的妄想

灯台としてはそれほど高くなく、どっしり構えて眼前の日本海を望む禄剛埼灯台。
地面から頂部までの高さは12メートルだが、いま僕が歩いてのぼってきた丘の上に建っているので、海面から灯火までの高さは48メートルになるという。
明治16年(1883年)初点灯という相当に古い灯台ながら、海上保安庁が管轄する歴とした現役選手で、現在も夜になると18カイリ(約33キロメートル)先まで届く5万5千カンデラの光を放ち、日本海を航行する船の道しるべとなっているのだそうだ。

美しい建造物だ
美しい建造物だ

灯室の下の一階建物は半円形で、石垣のような凹凸のあるブロックを積み重ねて造られている。
現在の禄剛埼灯台は遠隔コントロールされており無人だが、かつては灯台守が暮らしていたのであろうその建物は、西洋のお城を彷彿とさせ、この場の雰囲気をロマンチックなものにしている。

そう、昼下がりの“狼煙の灯台”は、非常にロマンチックだった。
この美しき灯台のある風景を眺めていると、もし僕がわたせせいぞうだったら、即座にハートカクテルのストーリーの一本も捻り出せそうな気がしてきた。

 半島の突端にある白い灯台の下で、僕は彼女を待っていた。
 
 1年前、僕が85%悪い喧嘩で家を出ていった彼女だ。
 
 その後、風の噂で彼女が296km離れた西の港町に住んでいると知った。
 
 僕はその町のミニFM局に葉書を書き、彼女と僕だけにわかるメッセージを送った。
 
 彼女が好きだった、コニー・フランシスの曲のリクエストを添えて。 

 そして今、僕は灯台の下で彼女を待っている。
 
 もし彼女があの放送を聞いていたら、もうすぐ坂道をのぼってくるはずだ。
 
 11月だというのに暖かい日で、6ノットの南風が僕の左頬を通り過ぎた。

てな感じでね。
わかるかなー? わっかんねえだろうなー、わけえやつらには。
でも待てど暮らせど、僕の別れた彼女、ナミという名の髪の長い美女は現れなかった。
妄想なのでね。

最果ての地に来たと実感できる場所
最果ての地に来たと実感できる場所

ついついそんな妄想を発動させてしまうほど、オーセンティックな異国情緒漂う素敵な場所だったということを言いたいのだ。禄剛埼灯台というのは。