性的同意、親子でどう学ぶ?
斉藤 加害者臨床の立場からすると、不同意性交等罪の罪名の中に「同意」という言葉が入った意義はとても大きいと思っています。私は10代の少年事件を担当することもあるのですが、彼らに「性的同意っていう言葉を知ってる?」と聞くと、皆一様に首をかしげます。
川本 「性的同意」という言葉自体を知らない、聞いたことがないんですね。
斉藤 そうなんです。そこで私がひとつひとつ説明すると、「このことをちゃんと学んでいたら、今回のような事件は起こさなかったかもしれない」という反応が返ってくるんです。これは驚くべきことです。学校や家庭などで性的同意の概念を学ぶこともなく、YouTubeやSNS、友達との会話から得た知識だけで、自分なりの性的同意の概念をつくり上げてしまった結果、事件を起こしてしまった。
そう考えると、やはり幼少期から家庭や学校の中において、包括的性教育のなかで「同意」について大人たちが教えていくことが大事だと強く思います。
川本 わが家の話で恐縮ですが、『子どもを守る言葉「同意」って何?YES、NOは自分が決める!』(レイチェル・ブライアン著、中井はるの訳、集英社)という本を小学校1年生のときから読ませています。この本、本当にいいんですよ。バウンダリー(境界線)、体の自己決定権、同意といった概念が、ハッピー感のあるイラストと文体で伝わるようになってるんです。
斉藤 この著者は、世界的な人気動画〝Tea Consent(お茶と同意*2)〞をつくったアニメーターで、自身の娘が「学校で突然男の子にキスされた」と話すのを聞いて、「子どもこそ『同意』を知るべき!」と考えて子ども向けのビデオをつくり、この本を書いたといわれています。
この本で取り上げられている「バウンダリー」は、中高年にとってはあまり耳なじみのない言葉かもしれませんが、人によって「大丈夫」や「嫌だ」と感じるバウンダリーが違うことがわかりやすく説明されているのも画期的です。これは大人もあらためて読むべき内容です。
川本 「キミはキミ自身の『王』なんだよ」「キミのからだはキミのものなんだ!」というのもとても教えやすいですね。いまの段階では、うちの性教育はバウンダリー教育に近いですね。
斉藤 もう少し年齢が上のお子さんには、『10代のための性の世界の歩き方』(櫻井裕子著、イゴカオリ漫画、時事通信社)もおすすめです。櫻井裕子さんはベテランの助産師で、小・中・高・大学生や保護者に包括的性教育に関する講演を全国で行っている方です。
実は櫻井さんとは、2022年9月から大船榎本クリニックで月に1回、性加害者を対象とした包括的性教育プログラム「性的同意は世界を救うプロジェクト」を一緒にやっています。このプログラムは参加者、つまり加害当事者からの「性教育を学び直したい」という強い希望がきっかけで始まった、日本で初めての試みです。
うちも上の息子が今年中学に上がったのですが、とくに男の子は思春期にさしかかると自分の世界を持つようになります。そうなるとなかなか親と話す機会も少なくなってくるので、その手前の段階で包括的性教育を通したコミュニケーションができるのが理想だなと感じます。父親も自身の性を語る言語を持っているわけですから、まずは自分の体験から話を始めるのがいいと思います。
以前、仕事でご一緒したタレントの小島慶子さんは、子どもの性的な疑問や質問には「とにかく親が恥ずかしがったり照れたりしたらダメ」とおっしゃっていました。男女の体の仕組みや違いを子どもにわかる言葉で説明することを心がけているようです。これは目から鱗でした。
川本 私もわりと、そんな感じです。そもそも体のパーツはどれもつながっているのに、指の話はなぜよくて、ちんちんの話はなぜダメなのか私にはわからない。でもそのテンションでママ友の集まりに行くと引かれるので、そういう人の前では黙ってますけど(苦笑)。
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