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「あれは一体何だったのか」

被害に遭った男性の多くは、このように感じることが多いように思います。とても不快で、怖さや気持ち悪さ、怒りさえ感じるような出来事なのに、自身が体験したことを表す言葉が思い浮かばず、ただただ混乱の中に放り出されてしまったような感覚。何とも不愉快だけれどもさまざまな感情が入り混じっており、自分としてもどうしたらいいのか分からない……。

性暴力被害に遭うことは、性別に関係なくこころの深いところに傷を負う深刻な出来事ですが、現状では性暴力被害に遭うのは女性である、男性は被害に遭わないという思い込みが社会では根強いと思います。

確かにさまざまな調査において、男性に比べて女性の被害率のほうが高いという結果が出ていますが、男性は被害に遭わないということでは決してありません。「男性は性暴力被害に遭わない」という思い込みのため、男性の性暴力被害についての社会的な認知度が低く、被害当事者の身の上に起こったことを表す言葉も容易に見つからないのが現状かと思います。

「嫌なのに身体が反応してしまう」生理現象…同性からの性加害を受けた男性が被害を即座に認識できない理由とは_1
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女性の性暴力被害も、レイプなどの深刻な被害以外の体験を「被害」として捉える動きが生まれたのは、実はまだここ30年くらいのことです。性暴力被害そのものがいまだ発見される途上にあると言えますが、それでも例えば職場ですれ違いざまにお尻を触られたりしたら、「セクハラだ!」と感じることができるでしょう。

ひと昔前までは、そのようなことがあっても「うまくかわす」「うまく流す」ことがよしとされ、女性としては本当に腹立たしく屈辱的なことだったと思いますが、さすがに今そんなことをすれば非常識な人と見られるでしょう。

仲間が集まる中で、例えば女性が下着を脱ぐことを強要されたら、それはひどい「性的いじめ」であると、本人も周囲の人も思うことができると思います(ただし、女性であっても自身の体験の相手が知人であったり自分の持つ「性暴力」のイメージと異なったりする場合は、「性暴力」であると認識できるまで時間がかかるとも言われています)。