事業欲の強い経営者は危うい

もう一つお話しすると、私は事業欲の強い経営者は危ういと考えています。

世の中には、業績が好調な時期にどんどんお金を借りて、事業を拡張する経営者がいます。「チャンスの神様には前髪しかない」という言葉もありますが、やれるときにやるべきだと思い込んでいるのです。おそらくは楽観主義なのでしょうが、そうして会社を潰した方を何人も見てきました。

一定以下に自己資本比率を落としてしまうと、環境が変化したときに対応できません。具体的には、自己資本比率が10%を割るようならば、金融以外の業種では絶対に投資をしてはいけません。とくに、ホテルや飲食店のような先に設備投資をしなければならない業種では、どこかに踊り場をつくらなければ資金繰りがもちません。

1990年にバブルが崩壊し、2000年前後に金融危機があり、2008年にリーマン・ショック、2011年に東日本大震災があって、2020年からはコロナ禍がありました。100年に一度や1000年に一度といわれることが、これほどの頻度で起きているのです。何も起こらない前提で経営をしていたら、うまくいきません。

激変した「JALのファーストクラス」顧客も喜ぶ「コストカット」でやめたこととは〈経営破綻したJALを再建した稲盛和夫の改革〉_4
すべての画像を見る

もちろん、BCP(事業継続計画)を立てておくことも必須です。しかし、コロナ禍を予想できた人は少ないでしょう。予想できないことが起こっても、キャッシュが手元にあれば切り抜けられます。自己資本比率をある一定以上に保つ経営が必要なのです。


写真/shutterstock

だから、会社が倒産する (PHPビジネス新書) 
小宮 一慶 (著)
激変した「JALのファーストクラス」顧客も喜ぶ「コストカット」でやめたこととは〈経営破綻したJALを再建した稲盛和夫の改革〉_5
2023/10/14
¥935
184ページ
ISBN:978-4569855684
30年以上停滞を続ける日本経済。そこに襲いかかったコロナ禍が終わったかと思うと、今度は急激な物価高。中小企業をめぐる経営環境は厳しさを増している。それでも、いつの時代も変わらない経営の原理原則から外れなければ、生き残れるし、伸びていける。

長年、数多くの企業の成功と失敗を見続けてきた経営コンサルタントが、その原理原則を解説。100年続く会社をつくるにはどうすればいいのか、自分が勤めている会社や気になるあの会社は大丈夫なのかが、これで分かる!

「当社の若いコンサルタントたちには、会社に行って何を見ればいいか分からなければ、とにかく『お客さま第一』の会社かどうか、外部志向かどうかだけを見てくるようにいっています。具体的に何を見るのかというと、2段階あります」

――本書より
amazon