加護ちゃんは勝新太郎、広末は無頼派

――中森さんが推したことがいろんなものに繋がっていく様子も書かれています。その中でも白眉だったのは、「チャイドル」という言葉を生み出したことが、中学生向けファッション誌「nicola(ニコラ)」の誕生につながっていく部分です。

今回初めて書いたんだけど、「チャイドル」という言葉を作ったことで、いろんな運命を変えたから。チャイドルがブームにならなかったら、「ニコラ」も創刊されなかった。

「ニコラ」の編集長が言ってたんだけど、「中森さん、読者モデルっているでしょ。まだプロダクションに入っていない子を撮影するには旅費から食事から何もかも出版社が払うんですよ。他の雑誌に沖縄出身の子なんていますか? お金がかかるから選ばれないんですよ。でも、新垣結衣だって、二階堂ふみだって沖縄の子だけれど、ニコラだから旅費が出て、世に出られたんですよ」って。

風が吹けば桶屋は儲かるじゃないけれど、僕が「チャイドル」と名付けてブームが生まれなければ、「ニコラ」は生まれなかったはずだし、ガッキーも能年玲奈(現在は、のん)も見出されなかった。彼女たちをデビューさせたのは自分だ……と勝手に思ってるんですよ(笑)。

警察官からAV女優に転身した、ちゃんよたが「あのAV女優をリングにあげるな」と言われてもプロレスデビュー。生き物として強くなるために出場したBreakingDownでは…。_4

――当時、スキャンダルに追われていた加護亜依さんを、中森さんや編集者、カメラマンたちが復活させようと動く話も面白かったです。

加護ちゃんは最高でしょ。加護ちゃんは勝新太郎だからね。今年の夏も韓国で撮られた写真が流出して問題になってね。とばっちりでしょ。あれがなければ、テレ東音楽祭でミニモニ復活したときに入っていたはずなんだよなあ。加護ちゃんのいないミニモニってなんなのって。

――加護さん、そして広末涼子さんを“無頼派アイドル”と書いていました。


広末もあの文章を書いたときにはまだ不倫スキャンダルの前だったからね。「入ってくれてありがとう」の前。でも、さすが無頼派じゃない。考えじゃなく衝動だよね。これぞ真の文学者だなあって。

――最終的には頓挫しますが、“加護ちゃん救済計画”はかなり具体的だったんですか。

そうですよ。あのときに実現していたら絶対うまくいったんだよ。「加護亜依24時」っていって、加護ちゃんが60年代のジョン・レノンとオノ・ヨーコのパフォーマンスみたいにベットに入って、そこにカメラマンが来て写真を撮って写真集にしたり、YouTubeで24時間ナマ中継したり、対談や取材をして本を作ったりしてさ。

実際、カメラマンの笠井爾示とかもいてさ。加護ちゃんもワイングラス片手にタバコを吸いながら「爾示の写真はさ、におってくるのがいいんだよね」とか言ってね。まだ21歳くらいだったけどすごかったよ、おもしろくてね。

加護亜依写真集 『LOS ANGELES』(ジーオーティー・撮影/笠井爾示)
加護亜依写真集 『LOS ANGELES』(ジーオーティー・撮影/笠井爾示)

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《後編》「アイドルを推すことは未来を信じることだ」ジャニーズ、宝塚歌劇団といった伝統の崩壊…日本を代表するアイドル評論家が、それでもアイドル文化はなくならないという理由

取材・文/徳重龍徳 撮影/村上庄吾

『推す力 人生をかけたアイドル論』(集英社新書)
中森明夫
2023年11月17日
256ページ
新書判
ISBN:978-4-08-721289-1
なぜ私たちは「推す」のか?
秘蔵エピソード満載のアイドル人生論!
篠山紀信さん(写真家)推薦!

アイドルを論じ続けて40年超。
「推す」という生き方を貫き、時代とそのアイコンを見つめてきた稀代の評論家が〈アイドル×ニッポン〉の半世紀を描き出す。
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