言葉をそのまま受け止めてしまい余計に怒られる
この会社の人間関係が、村上さんを苦しめることになる。まず、気分に波のあるベテランの女性がいた。村上さんにはADHDのほか、言われたことを言葉のままに受け取ってしまうASDの特性もあった。そのため、そのベテランの女性とコミュニケーションをうまく取れないことが続いた。
「どうしてもケアレスミスが多く、そのたびにベテランの女性に怒られていました。そんなある日、ミスで怒られている最中「もう顔も見たくない」と言われたので「そうですか。わかりました」と、自分のデスクに戻ったら後から内線がかかってきて「今みたいなときは引き下がるところじゃないでしょ」と言われてしまい……」
教師から「もうお前は帰れ!」と怒られて本当に家に帰ってしまう小中学生のようだ。「帰れ」と言われたから帰ったという経験のある人は、思春期の場合は単に反抗しているケースが多いだろうが、中にはASDの特性からそのような行動を取ってしまった人もいるのかもしれない。
他にもベテランの女性からは「あなたは勉強はできるけど社会ではやっていけないね」「今までどういう教育を受けてきたの?」といった人格否定的なことを言われた。阪大卒を背負っているぶん、ミスをしたときの相手の落胆は大きい。こうしたプレッシャーに加えて給与も少ないといった理由から、村上さんは3年間働いたのちにこの会社を退職する。
2社目は専門学校の事務職についた。そこでは学生や保護者への対応や、オープンキャンパスの準備など、やらないといけない仕事が大量にあった。特に保護者からのクレーム対応には臨機応変な対応が取れず、つい電話を切ってしまうこともあった。
オープンキャンパスも頻繁に行なわれたが、参加人数が少なかったりすると当初予定していたスケジュールとは違う対応を取らねばならなかった。自分の中で整理していた段取りが変わってしまうとパニックになり、心療内科を受診することにした。そして医師より「発達障害かもしれない」と告げられ検査を受けると不注意優勢のADHDの診断が下された。