居心地が悪くなる映画
──ゲイの潤(矢野聖人)と女子大生の真奈美(錫木うり)、ふたりと枕営業をするホストの聖也(水石亜飛夢)の複雑な三角関係が描かれる作品ですが、出演の決め手となったのは?
矢野(矢野聖人、以下同) “ゲイ”というセクシャリティはもちろん、内容的にも今までやったことがない役柄だったので、30代に入った一発目の作品として、いい挑戦だと思いました。俳優としての成長のためにもやりたいと思ったんです。
──錫木さんが演じた真奈美役は、裕福な家に生まれた自分の境遇を“偽物”と嫌悪し、朗読劇『マダム・エドワルダ』を見てエロスに目覚めていきます。映画を見ていると、心を裸にし、妄信的に突き進んでいく真奈美の言動に居心地の悪さを感じると同時に、不思議と清々しさも感じました。
錫木(錫木うり、以下同) おっしゃる通り、この映画は本当に居心地が悪くなる映画だと思うんです(笑)。でも、登場人物の彼らも居心地が悪いんですよ。その状態をどこまで表現できるのか、自分を試してみたい気持ちがありました。そもそも普通じゃなかなか演じられない役をオーディションで選ぶこと自体、チャレンジングな気がして。切実にやりたい、チャレンジしたいという気持ちが大きかったです。
──監督は「役の人物そのものでありながら、裸の役者自身でもあるような存在を求めた」と語っています。撮影前には十分な準備期間が設けられ、ラポールメソッドと呼ばれる役作りの方法論を体験されたそうですね?
矢野 撮影前に1か月くらいかけて本当にいろんなことをしました。動物になったり、火や水になったり、みんなで相撲を取ったり……。
錫木 催眠をかけあったり(笑)。
矢野 そうそう。催眠術師の先生が来てくださって、かける側にも挑戦してみたんです。指が離れなくなる催眠術をうりちゃんにかけたら、少し離れてみていたマダム・エドワルダ役のTIDAさんになぜかかかっちゃって(笑)。
錫木 でもそういった1か月のリハーサルを行ったことで、俳優同士の距離感も関係性もすごく近くなったと思います。自分自身の役への向き合い方も深くなったし、松本監督が実践してくださったメソッドには本当に助けられました。