いい女とは情景として思い浮かぶような人
――もう1点、劇中での祥子って誰かの記憶に残る女性だなと感じました。さとうさんが考える、記憶に残る女性ってどういう方でしょう。
まさに引っかかっていたところで、劇中で「祥子ってなんかいい女だったよね」って、セリフが出てくるんですけど、そういう女性ってどういう人なのかはたくさん考えました。
すごく優しくしてくれたり、特定の思い出があったりするからこそ“いい女”なのかというと、それは違って。もっとフワッとした感情、日常生活の中で一緒にご飯を食べたり、映画を見
たりした、そういう何気ない思い出がよかった、過去のことが脚色されたときに「あのときよかったよね、あの女、いい女だったよね」って情景として思い浮かぶ人なんだろうなって。
――今回の祥子しかり、体を張るような演技が続いてらっしゃるイメージです。
恐れ入ります(笑)。
――色っぽく見えるように意識されていることはありますか?
色っぽいですか? 自分では全然色気がないなと思っているのですが。周りからも「いやらしさがない」って言われることが多かったりして。あまり意識できていないかもしれません。
――今回は特に、ピンク映画女優ということもあり、見せ方が難しかったのではないかと思いますが、意識したことはありますか?
祥子はもともと劇団員をやっていて、たまにピンク映画の仕事がきたら「出られます」って言えるような子でした。だから、体づくりはしておかなければいけないだろうなと思ったんですよね。ピンク映画の女優としてのプライドで。
ただ一方で、「30(代)前半で仕事がない」という設定を考えるとバッキバキにしておくのは違和感になってしまうんじゃないかなと思い、鍛えすぎないようにしました。
――鍛えすぎていないボディにリアリティを感じました。最後に、今回の作品を通じて気づいたことはありますか?
監督が柔軟に意見を聞いてくださる方だったので、相談しながら演じたシーンがたくさんありました。今回、荒井監督は脚本にも携わっているので、監督の中には祥子のイメージができていたはずで、撮りながら構築し直すことって簡単じゃないのに、フラットに私の意見を取り入れてくださって。
荒井監督とご一緒できてよかったと思っていますし、とても感謝しています。
『花腐し』(2023) 上映時間:2時間17分/日本
「火口のふたり」の荒井晴彦監督が綾野剛を主演に迎え、芥川賞を受賞した松浦寿輝の同名小説を実写映画化。原作に“ピンク映画へのレクイエム”という荒井監督ならではのモチーフを取り込んで大胆に脚色し、ふたりの男とひとりの女が織りなす切なくも純粋な愛を描く。
廃れつつあるピンク映画業界で生きる監督の栩谷は、もう5年も映画を撮れずにいた。梅雨のある日、栩谷は大家からアパート住人に対する立ち退き交渉を頼まれる。その男・伊関はかつて脚本家を目指していた。栩谷と伊関は会話を重ねるうちに、自分たちが過去に本気で愛した女が同じ女優・祥子であることに気づく。3人がしがみついてきた映画への夢が崩れはじめる中、それぞれの人生が交錯していく。
綾野が栩谷を演じ、「火口のふたり」にも出演した柄本佑が伊関役、「愛なのに」のさとうほなみが祥子役で共演。
11月10日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開
©2023「花腐し」製作委員会
配給:東映ビデオ
公式HP:hanakutashi.com
公式X:@Hanakutashi11
取材・文/於ありさ
撮影/松木宏祐