人材不足の危機感から労働環境が改善

「物理的な暴力はここ5〜6年、パワハラやセクハラはここ2〜3年で明らかに減ってきた」とBさん。Aさんもほぼ同様の意見だ。この背景にあるのも、やはり人手不足・人材不足だ。パワハラやセクハラが横行する職場に人が居つくわけがない。業界に若い人が来ないという危機感が、現場に自浄作用をもたらした。

ふたりが昔を振り返る。

「私が業界に入りたてのころは、現場での暴力は珍しくなかったです。私もチーフ助監督や他部署の“親方”たちに蹴られることもありました。ただ、彼らを擁護するわけじゃないですけど、とにかく作品をよくしよう、撮影の進行をスムーズにしようと必死なので、愛は感じていました」(Bさん)

「僕自身は殴ったことも殴られたこともないですが、周りでは日常茶飯事でした。ただ僕が知っている限り、派手にそういうことをやっていた人たちは、結局仕事を振られなくなりました。少なくとも現在の僕は、手を上げる人を現場に呼びません」(Aさん)

Bさんは性暴力に関して、2017年ごろに知り合いの女性からこんな相談を受けた。

「現場の先輩に、レイプされそうになったというんです。撮影後に飲み会があって参加したところ、飲み会後に先輩が宿泊先の部屋までついてきて、無理やり押し入ったと。必死に抵抗して未遂で済んだそうですが」(Bさん)

当時、女性は20代、先輩は30代半ば。Bさんはその作品に関わっていなかったが、女性が参加している作品のプロデューサーと知り合いだったため、自分がそのことを伝えようかと提案したが、彼女には「それだと角が立つので、私から直接言います」と言われた。結局、先輩にはプロデューサーから厳重注意が下ったものの、現場を外されることはなかったという。

【映画業界の闇】暴力、セクハラ、低賃金、超過労働がもたらす事故や人材流出が止まらない…現役映画プロデューサーが証言する撮影現場のリアル_3

折しも2017年はハリウッドの大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが行った過去の性暴力や性的虐待が明るみに出て、一大騒動になった年だ。それをきっかけに広がった「#MeToo」運動は日本にも波及した。

「作られる作品がどんどん増えてスタッフの取り合いになっていたところに、#MeTooが盛り上がってきたので、現場では『いよいよやばいな』『このままじゃだめだ』という意識が高まったと思います。だって、叩けばホコリが出る人はおそらくたくさんいますから。ようやく業界が変わるチャンスだと思いました」(Bさん)

なお日本の映画人の性暴力に関しては、2022年に著名な監督や俳優が相次いで実名で告発されている。