アルコールの代謝システム

人体には、アルコールを分解、代謝するシステムが備わっている。その重責を担う臓器は、肝臓だ。

私たちがお酒を飲むと、胃や小腸で吸収されたエタノールは肝臓に運ばれ、まずアルコール脱水素酵素によってアセトアルデヒドに分解される。アセトアルデヒドは、アルデヒド脱水素酵素によって無害な酢酸に分解される。酢酸は、いわゆる「酢」である。最終的に酢酸は二酸化炭素と水に分解され、体外に排出されるしくみだ。

一方、メタノールが体内に入ると、同様にアルコール脱水素酵素によってホルムアルデヒドに、アルデヒド脱水素酵素によってギ酸に分解される。このギ酸こそが人体にとって有害な酸性の物質であり、体内に蓄積することでさまざまな臓器に障害を引き起こすのである。

エタノールの中間代謝産物であるアセトアルデヒドは、二日酔いの原因としてよく知られた物質だ。肝臓で処理しきれないほどのお酒を摂取すると、多量のアセトアルデヒドが体をめぐり、頭痛や吐き気などの症状を長引かせるのである。

「訓練すればお酒に強くなる」ことはない…お酒を飲んで顔が赤くなる日本人が無理して飲むと例外なく食道ガンのリスクが生じる遺伝的理由_2

アセトアルデヒドを分解するアルデヒド脱水素酵素には、1型(ALDH1)と2型(ALDH2)の2つのタイプがある。実はALDH2の働きの強さは、両親から引き継いだ遺伝子のタイプによって個人差がある。

人によってお酒に「強い」「弱い」の差があるのはそのためだ。お酒に「弱い」のは、酵素の活性が弱い、あるいは酵素を持たないことが理由であり、遺伝子によって決まる生まれ持った性質だ。よって、「訓練すればお酒に強くなる」ことはない。

一方、メタノールの中間代謝産物であるホルムアルデヒドが水に溶けたもの(水溶液)が、「ホルマリン」である。生物の標本を作成する際に、防腐・固定処理に使う物質だ。学校の理科室でホルマリン漬けにされた標本を見たことがある人も多いだろう。

ちなみに、ホルマリンは私たち外科医が毎日のように用いる液体でもある。手術で切除した組織や臓器は、何もせずに放置すればたちまち腐敗してしまうため、なるべく早くホルマリンに浸す必要がある。ホルマリンによって組織の変化を完全に停止させることを「固定」という。固定された組織や臓器は、病理検査に提出され、病理診断科のスタッフが顕微鏡で観察して病気を診断する。患者の治療方針を左右する、極めて重要なこのプロセスにおいて、ホルマリンはなくてはならない液体だ。

なお、手術や病理診断に関わらない医師たちも、ホルマリンの鼻をつく独特の臭いを誰もがよく知っている。なぜなら、医学部の解剖学の講義で、ホルマリンで固定されたご遺体を用いて人体解剖を行った経験があるからだ。