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狂犬病は多くの人命を奪う 

致死率ほぼ100パーセント。世界でもっとも致死率が高い病気としてギネス記録にも掲載される感染症がある(1)。狂犬病だ。

毎年、世界で5~6万人が狂犬病で死亡している(2)。大半は狂犬病にかかったイヌに嚙まれて感染したケースだが、ネコやコウモリ、キツネなどの野生動物から感染することもある。世界のほとんどの地域で狂犬病は絶えず発生し、多くの人命を奪っている。

ところが、日本でこの事実はあまり知られていない。イヌやネコに嚙まれたことのある人は少なくないだろうが、日々狂犬病のリスクに怯えている日本人はいないはずだ。日本は世界でもまれに見る、狂犬病清浄地域だからである。

狂犬病から真に安全な場所は世界で6地域だけ。発症したら100%死亡する恐ろしい感染症と現代まで続くワクチンの概念とは_1
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狂犬病清浄地域とは、狂犬病が蔓延していない地域のことだ。日本以外の狂犬病清浄地域は、アイスランド、オーストラリア、グアム、ニュージーランド、ハワイ、フィジー諸島の六地域しかない(3)。つまり、ごく一部の島国や島嶼地域だけである。

日本なら狂犬病にかかる心配はないという事実は、当たり前ではない。これは、1950年の狂犬病予防法の公布以後、先人たちが命の危険に晒されながら築き上げた貴重な環境だ。

1950年以前は、日本でも多くの人が狂犬病で亡くなっていた。だが、狂犬病予防法によって飼い犬の登録やワクチン接種が徹底され、1957年に狂犬病が撲滅されたのだ。

それ以後、日本での狂犬病感染例はない。1970年に1人、2006年に2人、2020年に1人、いずれも海外でイヌに嚙まれたのち日本で発症し、死亡した例があるのみである。だが、この恵まれた環境を維持することは、さほど容易ではない。狂犬病に感染した動物が日本に侵入する危険性は常にあるからだ。

動物検疫所では、海外からの動物の輸入について、厳密な規則を定めている(4)。特に狂犬病清浄地域以外からイヌやネコを日本に連れてくる場合、まず皮下へのマイクロチップの埋め込み、2回以上のワクチン接種と抗体検査、さらには日本到着まで180日間以上の待機期間が必要となる。

こうした地道な努力があるからこそ、私たちは日本で狂犬病の心配をすることなく生活できるのである。