伝説のクマ撃ちハンターがきっかけのひとつ
――安島先生は、なぜ狩猟をテーマに漫画を描こうと思ったのでしょうか。
実は、最初は釣り漫画を描くつもりでした。でも正直面白いネームが描けなくて(笑)。そんな中で当時の担当編集と打ち合わせに行ったら、急に言葉遊びが始まったんです。釣り、海、漁師…猟師! 山のほうの猟師はどう?と。
――と言っても、ある程度知識や興味がないと難しいテーマですよね。
新人だったので、とりあえず挑戦するしかなかったというのが本音です(笑)。でも生まれが愛知の山奥なので、気づけば地元に残った弟が農家になって狩猟免許を取得していたりして。意外とハンターの存在って身近にあったんですよ。漫画のネタにする発想はなかったけど。
――なるほど。気付かぬところで、先生のルーツが背中を押したのかもしれませんね。
そうかもしれません。あと、ちょうどそのころ久保俊治さんという伝説のクマ撃ちが話題になっていたんです。テレビのドキュメンタリー番組にも取り上げられていたり。だから、まったく興味がなかったというわけでもありません。ちなみに、ハンターの中でもクマ撃ちをテーマにしたのは久保さんの影響が大きいです。
――クマにもいくつか種類があると思いますが、エゾヒグマを中心に置いたのはなぜですか?
それもやはり、久保さんの影響です。僕が描きたかった「リアリティのある現代の冒険活劇」に、クマ撃ちというのはすごくハマると確信しました。これは面白いものが描けそうだと。
――主人公の小坂チアキは女性ですが、実際に女性のハンターさんもいるのでしょうか。
いますよ。数は男性のほうが多いですけどね。女性を主人公にしたのは、男性を主人公にすると僕自身により過ぎてしまうからです。
――第2話では、シカを解体して調理するシーンを描いていますよね。ただ、テーマ的にありそうな“命をいただく”といった仰々しい描写がないのは印象的でした。
僕自身が唯物論的な考え方を持っているからですかね。命をいただくってのは、本当にもう前提の前提、常識の話で、描きたいのはそこから先のこと。取材に協力してくださったハンターさんにも、同じような考え方の人は多いです。
生活の中に当たり前に命のやり取りがあるので、クマがいて悪さをしている、じゃあ撃つよね、撃ったら食べるよね、とすごくシンプルです。リアリティを描きたいという考え方に則ると、それを無視してまで“ありそう”なことは描けません。描きたくないですしね。
【漫画】「クマ撃ちの女」第1・2話を読む(漫画を読むをクリック)
取材・文/鳥山徳斗