深夜放送「セイ! ヤング」のパーソナリティで確立された谷村新司のキャラ


『チャンピオン』は小学生男子にもわかりやすく、当時誰もが夢中になっていたスポ根ものアニメソングにも通じるような曲だった。
そのためか、遠足の日に先生が配るガリ版刷りの歌本には必ずラインナップされていて、バスの中でクラスメートと声を合わせて歌ったりしたものだ。

まだ素直なプリティチェリーボーイであった小学3年生の僕の眼前に突如現れた(テレビの中ですが)アリスは、とてもカッコよく見えた。
特に堀内孝雄とともにフォークギターを抱えて歌う谷村新司の歌声は、太いのにツヤっぽく、本当にしびれた。
なんとか真似して歌おうと思っても、声変わり前のチェリーボーイにはとても近づけるものではなかったが。

そんなふうに手放しで谷村新司をかっこいいと思っていたのは、僕が小学生だったからなのかもしれない。その当時すでに中高生以上だった人には、谷村新司はまたちょっと違うキャラクターとして知られていたようだ。

文化放送の人気深夜番組「セイ! ヤング」で1972年から1978年まで火曜日パーソナリティを務めていた谷村新司。
投稿コーナー「天才・秀才・バカ」が書籍化されるほど人気を博していた番組だったが、谷村新司は放送禁止の4文字言葉を連発するなど、伝説に残る下ネタ満載のトークを繰り広げたことでも知られている。

小学生だった僕はもちろん、そんな深夜放送は聴いていなかったので、ミュージシャンとしていずまいを正した谷村新司しか知らなかったのだが、当時すでに思春期を過ぎていた、特に男子にとって、谷村新司はラジオでエロい話ばかりする、めちゃくちゃ面白いDJという捉え方をされていたのだ。

だが、アリスの『冬の稲妻』(1977年)『チャンピオン』(1978年)、また当時トップアイドルだった山口百恵に提供した『いい日旅立ち』(1978年)、ソロでリリースし日本だけではなく中国を中心とするアジアでも大ヒットした『昴』(1980年)、そして1992年に日本テレビ系列「24時間テレビ 愛は地球を救う」のテーマソングとして、番組内で加山雄三と競作(代表作詞・谷村新司 作曲・弾厚作[加山雄三])した『サライ』など、谷村新司の代表作を集中して聴いてみると、不思議なことにそうした下世話なキャラクターの片鱗すらうかがえない。

EP『いい日旅立ち』山口百恵
EP『いい日旅立ち』山口百恵
EP『昴』谷村新司
EP『昴』谷村新司


歌詞はいずれも真摯かつ文学的であり、ラブソングも決して直情的な表現は使わず、聴く人の心に染み入った後、何度も反芻するうちに男女の機微がそこはかとなく浮かび上がってくるような奥ゆかしいものだ。

ラジオでは下ネタを連発したり、ビニ本コレクターであることを公言したりと、タレントとしての谷村新司は絶倫男のイメージを隠さなかったが、本業であるミュージシャンとしては、そういった部分を決して見せたくはなかったのではないのだろうか。