念書やビデオ撮影は「違法性をあぶりだすもの」と立法が判断

中野さんは、旧統一教会が「献金しなければ自分も家族も不幸になり、先祖も救われない」などと母の不安をあおり、社会通念から逸脱した違法な献金をさせたとして、約1億8500万円の損害賠償を求めて2017年3月に提訴した。

東京地裁での裁判では、教会側が念書について母に質問したビデオを撮影していたことも明らかに。そこには、「返金請求することになっては断じて嫌だということですね」などという質問に、母が単調に「はい」と答える様子が映っていた。

こうした念書やビデオを盾に教会側は正当性を主張したが、中野さんたち原告側は「当時、母は86歳と高齢で十分な判断能力がなかった」と反論。実際に母親は念書を書いた約半年後にアルツハイマー型認知症との診断を受けている。
しかし、2021年、地裁は献金が自由意思によるものだったと判断。2022年7月7日の高裁判決も同様の判断を下し、中野さんは連続で敗訴となった。

母の書いた念書を手に被害について語る中野容子さん
母の書いた念書を手に被害について語る中野容子さん

だが、この翌日の7月8日。安倍晋三元首相が銃撃を受け、状況は一変する。
銃撃事件によって旧統一教会の問題は国会でも大きな話題となる。昨年12月に成立した旧統一教会被害者救済法では、霊感商法などの不安をあおる不当な勧誘行為が禁止されたほか、不安を抱かせて行われた寄付を取り消す「取消権」が新たに行使できるようになった。

しかし、残念ながら救済法は施行前の事案には適用されず、中野さんの訴訟は取消権の対象外に。
一方、この救済法に関する議論では、中野さんが敗訴する原因となった「念書」について、これまでの判決とは違う方向で整理されることとなった。

救済法について解説した消費者庁の資料では、念書について「寄附の返金を求めない旨の念書は、民法上の公序良俗に反するものとして、無効となり得る」と説明。
さらには「『返金逃れ』を目的に個人に対して念書を作成させ、又はビデオ撮影をしていること自体が法人等の勧誘の違法性を基礎付ける要素となるとともに、(中略)損害賠償請求が認められやすくなる可能性がある」とまで踏み込んだ。
つまり、念書の存在は教会側の献金の「正当性を裏付けるもの」ではなく、返金を阻止しようとする「違法性をあぶりだすもの」へと変わったのである。