「もうここに賭けるしかない」と追い詰められる親たち

そして次は、A塾に電話をかけた。望月弁護士から、解約を希望していることや、少年の荷物を引き取りたいことなどを伝えると、塾側はあっさり了解したようだった。

民間の支援業者になぜ親たちは頼るのか。

役所などの公的機関では解決に時間がかかる。ひきこもりや不登校の相談でも、たいていは「焦らず待ちましょう」などとアドバイスされる。

家庭内暴力があっても、子どもを家から連れ出し、預かってくれることなど期待もできない。そこに、問題をすぐに取り除いてくれるとうたう民間業者やサービスが現れる。

「あなたがなんとかしてくれるんですか」ひきこもり、不登校、家庭内暴力に翻弄される家族の叫びのかたわら、拉致同然で入れられた支援センターから脱出し自死を選んだ少年もいる現実_3

あけぼのばし自立研修センターのパンフレットにもこうある。

「もう、どうしたらいいか分からない」
「この子とこれ以上一緒に暮らしたくない」
「自分の子がこう(ひきこもり)だって誰にもいえない」
「(子どもと)話もできない・接触できない」
「あの子を殺したいと思ってしまう」

これは、実際にあけぼのばし自立研修センターへ寄せられている率直なお客様の声です。

そしてパンフレットはこう締めくくる。

「私たちは、人としての基本的な生活から、就職や夢への実現まで幅広くサポート致します」

こうして親たちは意を決して、またはすがるような思いで数百万円という対価を支払う。

ひきこもっている大学生の息子のために、あけぼのばしと半年で680万円という契約を結んだ中部地方の60代の父親からはこんな話を聞いた。

「その時はもうここに賭けるしかない、と追い詰められていたんです。確かにパッと出せるお金ではない。ですがこれだけの金額を取るのだから、なんとかしてくれるという期待もありましたよね」

その方の大学生の息子は結局、施設を飛び出した。それでもお金は戻らない。いまは自宅で過ごしているという息子とは互いに当時の話はしないという。