「不登校、家庭内暴力、ひきこもり」

ネットでひきこもりの支援業者を検索してみると、大抵、この三つの言葉が併記され、経験あるプロが解決に導く、とうたう。

だが、これまで「引き出し屋」の取材を続けてきた私は、この種の業者のいう「プロ」の言葉や、解決方法に疑問を抱くようになっていた。宣伝でうたうような「成功例」が、本当にあるのだろうか。

小柄でおとなしそうな目の前の少年は10代。私は19年秋に取材で熊本にある「あけぼのばし自立研修センターくまもと湯前研修所」を訪れた。その際、研修所から脱走し、近くの納屋で自殺した19歳の少年がいたことを知った。そのことがつい頭をよぎる。

施設を脱走しても、行く場所がなければ生きてはいけない。「施設には絶対に戻りたくない」という少年が今夜どこに泊まるかが、さしあたっての問題だった。

実は今回の手はずについては、関係者が管轄の保健所と連絡を取り合い、前もって事情を説明してあった。

少年の場合、通常の脱出支援が「未成年者誘拐」に問われるリスクもはらんでいる。そのリスクを回避するためだ。いきなり弁護士から少年の両親に連絡しては驚かせてしまうため、両親に保健所経由で連絡をとってもらうのも目的だった。

「あなたがなんとかしてくれるんですか」ひきこもり、不登校、家庭内暴力に翻弄される家族の叫びのかたわら、拉致同然で入れられた支援センターから脱出し自死を選んだ少年もいる現実_2

望月弁護士が、すでに少年が施設を出て近くにいること、「家に帰りたい」と希望していることを伝えると、母親は軽いパニックに陥ったようだ。

「いや、待ってくださいよ。うちは息子にひっかき回されてきた。これ以上無理だというなかで、ぎりぎりのところで生活している」
「息子ひとりがよければいいんですか!」

A塾に入れられたことを恨みに思った少年が帰宅し、余計に暴れることを恐れているのかもしれない。

まず、「家に帰る」という希望をかなえるのは難しそうだった。ひとまず少年を保護することを両親に納得してもらわなければならない。

――いったんこちらで保護することでご両親の了解を得たい。
「お金はどうなるんです」

――ご両親に請求することは考えていません。
「弁護士さんが次の施設を見つけてくれますか」……。

話の様子では、この両親は数百万円もの費用を支払ったらしい。
望月弁護士が言葉を重ねる。

――ご両親は本当に苦しまれてきたし、助けがなかった。私もそれなりに理解しているつもりです。でも、息子さんにA塾は合わなかったんですよ。ご家族はみなさん傷ついていると思う。それを息子さんだけに背負わせて、ひとりだけ家を出されてしまっています。いきなり業者に連れて行かせる前に、息子さんとよく話をするべきだったのではないでしょうか。

「話したって息子は……」

とりあえず少年が施設を出ることについては納得したようだ。望月弁護士は保健所とやりとりし、その晩は少年を都内のホテルに宿泊させることに決まった。