スター無き活況

活況に沸く公営競技界だが、不思議なことに、スター選手・スターホースが現れていない。

中央競馬でもディープインパクト以降、競馬ファン以外に名を知られる馬は出ていない。

2022年、競輪選手の脇本雄太が公営競技界初の三億円プレーヤーとなった。脇本は東京オリンピックにも出場し、これまで競輪の数々のG1タイトルを獲得している名選手だ。

だが、競輪ファン以外で脇本の名を知る人がどれくらいいるだろうか。

ボートレースで初の女性SG覇者となった遠藤エミの名をスポーツ新聞以外でみることはほぼない。オートレースでいえば青山周平と鈴木圭一郎は、オートレース史に青山・鈴木時代と記されるだろう選手だ。

スポーツ新聞の販売部数が減少していることが、スター選手・スターホースが出にくい理由かもしれない。

職業体験・社会見学の一環としてボートレース場に行く小中学校、「五輪種目」になるケイリン…公営競技はほんとうに迷惑施設なのか_6

1980年頃の話だ。当時、大阪市の人口が減少し、横浜市の人口が大阪市を上回ったこともあって、近畿圏の経済的地盤沈下が語られることが多かった。

その頃「東京のサラリーマンは通勤電車で日経を読み、大阪のサラリーマンはサンスポを読んでいる。だから関西は地盤沈下する」という文章を何かで目にした。実際はどうだったか? 

確かに、通勤電車内で日経新聞を読むサラリーマンは、東京ではふつうに見かけたが、大阪では殆ほとんど見かけなかった。大阪のサラリーマンの多くはサンケイスポーツやデイリースポーツを読んでいた。

今の車内で新聞を読む人はほとんどみかけない。みなスマホを見つめている。新聞なら特に関心のない情報も自然に目にするが、スマホの小さな画面には関心のない情報は映し出されない。

ネット投票を楽しむ若者をみていると、予想紙やスポーツ新聞を手にしない人が多い。スマホを駆使し、くじ感覚で投票を楽しんでいるようだ。赤鉛筆(そもそも赤鉛筆そのものを触ったことがないかもしれない)の書き込みで一杯の予想紙を手にして、あれやこれやと思案しているのは中高年、いや高齢者といってもいいかもしれない。

ボートレースの売上の伸びが他を圧倒しているのは、そういう若者の嗜好にもっともマッチしていることと、宣伝・広報活動を効果的におこなっているからだろう。

渡辺俊太郎は「このネット発売の活況はいつまでも続かない」と言う(「グローカルインタビュー・JPF社長渡辺俊太郎氏〝競輪場は賭け事のためだけの存在か 自転車振興の拠点、地域に価値生む 収益で普及強化、街おこしにつなげる〞」日経グローカル、二〇二二年九月一九日号)。
 
さらに渡辺は「だから裾野を拡げないといけない」と言う。確かにその通りだろう。渡辺の活動については様々な意見を耳にするが、活況がいつまでも続かないという渡辺の認識は全く正しいし、裾野を拡げないといけないという主張もその通りだろう。