安全な食と地球環境を子どもたちへ

これまで2年間の実証実験と改良を重ね、ミズニゴールはより安定した製品に成長してきた。また、2024年には自動運転も実装できる見込みだという。

「ただ、いきなりお客さんにリリースする前に、まずは自分たちの畑で実証実験をして、うまくいったら翌年から提供を開始したいと考えています」

自動運転ができるようになれば、利用者の手間はさらに削減できるだろう。

なお、同製品はレンタルの形で提供している。2023年の場合、1台・1シーズンで22万円という料金体系だった。

「年間で40日しか使わないので、購入していただかなくてもいいだろうと考えています。特に今の段階だと、まだ故障や使い勝手のよくない部分がありますから。将来的に故障が減って製品寿命が伸びていけば、利用料金も下げられると思います」

同製品は3〜5日に1回程度の利用で済むため、複数の農家で1台をシェアする提供方法をイメージしているという。複数の農家で利用料金を分担すれば、1農家あたりは1シーズン数万円で済む。そうなれば、合鴨農法で合鴨を仕入れるよりもコストを抑えられるのではないか、と日吉さんは考えている。

「低コストで草取りの手間が大幅に減るなら、今まで農薬を使っていた農家さんも無農薬栽培に転換できると思います。そうして無農薬に取り組む農家さんが増えれば、その農家さんだけでなく、日本の農業全体にもプラスになるのではないでしょうか」

日本農業の「構造的問題」にロボティクスのチカラで挑戦。農家の重労働を削減するスマートデバイス「ミズニゴール」とは?_3
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実証実験は、無農薬給食・農法の拡大を図る自治体・研究機関と共同で実施した

日吉さん曰く、お米に限らず、日本の農産物の残留農薬は、海外に比べ基準が甘いという。日本の有機JASの基準だと、輸出できない国もあるのだそうだ。

「一方で、日本のお米が海外で高値で取引されている現状もあります。それこそ、日本での買取価格の10倍から15倍くらいの金額です。つまり、輸出ができる基準のものさえつくれば、高値で販売できる。農業の収益構造が大きく変わります。そうすれば、自分たちの子どもに継がせようという気持ちになれるのではないでしょうか」

また、無農薬栽培が広がっていくことで、地球環境にも貢献できると日吉さんは指摘する。

「欧米だと『リジェネラティブ・オーガニック(環境再生型農業)』という言葉が使われ始めています。サスティナブル(持続可能)からもう一歩進んだ考え方で、リジェネラティブ・オーガニックを推進すると地球温暖化を抑制できるという論文もあるんです。食の安心だけではなく、子どもたちが安心して暮らせる環境を残すことにもつながるのではないかと考えています」 

三輪車ほどの小さなデバイスが、本当に日本の農業や子どもたちの未来を変えるかもしれない。ミズニゴールがこれからどのような轍を描いていくのか、その活躍に期待したい。

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インタビュー・文/小平淳一 
写真提供/株式会社ハタケホットケ