2040年代前半に厚生年金の積立金が枯渇する
2020年度においては、厚生年金の経常収支はほぼ均衡している。しかし、その後は赤字が拡大する。赤字額の累計は、2040年度までだと、約100兆円だ。
これを積立金の取り崩しによって賄うとしよう(実際には、積立金の運用益を考慮する必要があるが、それについては後述する。ここでは、運用益がない場合を想定する)。
2022年12月末の積立金残高は、年金積立金全体で191兆円だ(GPIF:年金積立金管理運用独立行政法人「2022年度の運用状況」による)。
このうち厚生年金の比率は、過去のデータからすると79%程度と考えられるので、約150兆円だ。
ところが、2040年度以降は、単年度の赤字が10兆円を超す。だから、2040年代の前半に、積立金が枯渇することになる。
これを回避するためには、支給開始年齢の引き上げが必要になる。
積立金の運用収益に頼ることはできない
年金会計の収入としては、以上で考えた経常収入のほかに、積立金の運用収入がある。
運用収入がどの程度の額になるかは、経済情勢によって大きく変動する。2020年においては、35.7兆円という巨額の運用益が発生した(収益率では24.0%)。
しかし、収益率がマイナスになった年もある。2022年においては、四半期連続で赤字となった。
2001年度から2021年度の間の平均運用利回りは3.7%だ(GPIF、「年金積立金の運用目標」による)。
現在の積立金が約150兆円であるから、積立金の額が不変であるとすれば、年間で5.5兆円程度の収入を期待できることになる。
しかし、2030年代の後半には、経常収支の赤字が6兆円を超える。そうなると、積立金の取り崩しが必要になり、残高が減少し始める。すると、運用収益も減少する。こうして、積立金の残高が急速に減少するという悪循環が始まる。
したがって、運用益を考慮したとしても、先に述べた収支見通しに大きな違いはないだろう。破綻時点が若干後にずれることはあるだろうが、大勢に影響はないと考えられる。
しかも、運用収益がどうなるかは、将来の経済情勢に依存する。だから、運用収益をあてにすることはできない。経常収支についてのバランスを実現することが重要だ。
文/野口悠紀雄 写真/shutterstock
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