日本のイメージは「バブル時代」で止まっている
日本は物価だけではなく、給料も安い国です。ただ、実際に他の先進国と比べて、どれほど安いかを数字で把握している人は少ないと思います。データを参照しつつ、日本の物価と給料が世界と比べてどれくらいの水準なのかを見ていきます。
外国人から見ると、日本人の給料は驚くほど安い水準にとどまっています。なぜ、彼らがそんなに驚いているかというと、海外では「バブル時代の物価も給料も高い日本」というイメージのままだからです。
1980年代から90年代の初め頃には、日本経済の快進撃が先進国のメディアで盛んに報道されていました。アメリカでは日本の自動車産業を叩いたり、家電業界を攻撃したりする保守派が少なくなく、当時アメリカのテレビでは日本車をハンマーで破壊する自動車産業の労働者の姿が放映されていたりしたのです。
そして、同じ頃の欧州では、景気がよくない国が多かったために、日本企業の支援に頼って地域経済を復興させようと、わざわざ日本の会社を現地に誘致していた国もありました。
そうした動きを見せた国の筆頭がイギリスでした。当時のイギリスは「イギリス病」と言われた経済の停滞に苦しんでいました。組合があまりにも強いために生産性がぐんと下がってしまっていたのです。
そのため「鉄の女」と呼ばれたサッチャー首相が強くなりすぎた組合を解散させ、効率が悪い産業をどんどんつぶしていきました。その1つがイギリス北部の炭鉱地帯で、操業すればするほど赤字になる炭鉱や鉄工所、造船所、またそれらの産業に対してサービスや機械を提供する企業が倒産していきました。
炭鉱業や鉄鋼業、製造業はたくさんの働き手が必要です。そういった人々は多くが専門性の高いスキルを持った熟練労働者です。しかし、スキルが特化しすぎているために、他の産業に転職できず、失業してしまう人が続出しました。
イギリス政府は失業者の雇用を確保するために、日本の自動車産業を誘致したのです。当時お金があった日本企業は、それに応え、イギリスの北部に莫大な投資を行ってきました。
こうして、失業にあえぐイギリス北部を救ったのは日本だというイメージが定着したのです。
イギリスでは、いまだにこのイメージが根強く、「日本はお金持ち国家」だと思っている人も多くいます。彼らは「中東の産油国」のような豊かな国だという感覚を持っているところがあります。
そして、イギリス以外の欧州諸国には、1980年代から90年代にかけて、お金を持った日本人旅行客や投資家が押しかけていました。各国の主要観光地には必ずと言っていいほど、日本語のツアーや日本語の観光案内所があり、ブランド品で着飾ったツアー客や個人の旅行者がたくさんいました。
観光業界だけではなく、教育業界でも日本人向けのサービスに力を入れていました。音楽学校や語学学校は「留学ビジネス」を積極的に推し進め、日本人の学生が次々と欧州の学校にやってきていたのです。
現在では、観光業界も教育業界もすでに日本人向けのサービスは勢いがかなり落ち込んでいますが、当時の印象があまりにも強烈だったために、欧州には「日本人はお金をたくさん持っている」「日本は物価が高い」という印象を持っている人が大半です。
海外の若い人たちはSNSなどで、日本の現状をよく知っていたりします。一方、日本人が裕福だった時代を知っている。
40代以上の人たちはいまだにバブル時代の日本のイメージが抜けていないのです。