他罰思考では変わらない
藻谷 すばらしいのは、そうして泉さん自身が当事者や現場の生の声を聴き取って、施策を考えていることです。ちょっと前に、猪苗代湖で水上バイク事故が多発して死者も出て問題になっていましたよね。先日、水上バイクの雑誌『ワールドジェットスポーツマガジン』が、前明石市長の泉さんが、明石の危険な水上バイクを規制することに立ち上がったという記事を配信していた。
こういう話を聞くと、人を水上バイクでひくような金持ちのぼんぼんをちゃんと取り締まってすばらしいとみんな拍手喝采するわけです。だけど、それは犯罪者とその被害者を減らすためにやっていることで、行き場のない障害者の人、精神障害の人、罪を犯した人たちが孤立しないように支援するのと同じことですよね。危なくないように、みんながハッピーになるためにやっている。
でもネットに満ちているのは、「誰かを排除すれば問題解決」という他罰指向です。犯人を極刑に処したところで、それで被害者が救われるわけではないのですが、彼らは当事者ではなく観客なので、「罰して排除」というショーを求める。コロナ患者を村八分にしたのも同じ心理です。そういう人たちに合わせると、どんどん危ない世の中になっていく。危ない世の中にしないようになるべく皆を包み込もうとする泉さんの発想は、そういう風潮とは根本的に違います。
泉 水上バイクの問題も、人が死んでからでは遅いということですぐに動きました。危険な行為があった直後に、荒っぽい方法やけど殺人未遂として刑事告発して、実際それで、書類送検されました。その後すぐに検察庁に乗り込んで、検察を説得して突貫で条例もつくった。
でも、その規制をつくる前に、私も水上バイクの免許を取って、これを楽しんでいる方々の話も聞かないとちゃんとすみわけができないなと、ルールをつくるための聞き取り調査もしたんですよ。水上バイクの撲滅ではなく、行為に対しての罰則であって、水上バイクで遊べる場所もちゃんとつくる。その両立を図るのが政治だと思うんです。
藻谷 その経緯は水上バイク愛好家向けの雑誌に載っています。まともな愛好家であれば、ちゃんとルールは守っている。十把一からげに社会のカス扱いされたくはない。その彼らが、明石市長はすばらしいと褒めています。規制を作るに当たっては、ご自分で水上バイクの免許を取られて、ちゃんと利用者側の楽しみも理解した。これってすごい話です。そんな市長いませんよ。