上から目線や国家目線ではなく「住んでる人目線」

 藻谷さんにはそうした私の哲学や理念みたいなところも評価いただいて。今おっしゃったように子どもの支援と同じように犯罪被害者も加害者も支援するのは、一人ひとりの安心の提供なんです。その結果において、産みやすくなったり、暮らしやすくなる。だから、ほんとにそこが肝なんです。

藻谷 なかなかそこが理解されないですね。世の中には、「犯罪被害者を救うのはいいことだけど、加害者は一生刑務所に入っとれ」みたいな人もいっぱいいるじゃないですか。そういう人と泉さんでは、考え方の軸が違います。今日はそこをちゃんとわかるように解説を入れたいと思って来ました。何か偉そうですみませんが(笑)。

 いや心強いです。結局、上から目線や国家目線ではなく、いかに住んでる人目線になるかなんですね。明石市民が暮らしやすいから住み続ける、周りもそれに憧れる、そして、さらにそこに住んでいる人の満足が高まるという状況の中での効果なんです。そこを理解しないと、いろいろただにしたから来たんやろと非常に上っ面の議論になりがちです。

そうじゃなくて、根っこのところを理解してほしい。明石市が、罪を犯した刑務所帰りの人に対しても、お帰りなさいと受け入れる町づくりをやっているのは、藻谷さんのご指摘通り、子どもへの支援と一緒なんですよ。

「なぜ明石市のコミュニティバスが全国トップレベルの成功を収めているのか。その答えはサイレントマジョリティの声にあります」泉房穂×藻谷浩介_2

藻谷 そこですよね。「明石市では、あの酒鬼薔薇事件の被害者のお父さんがリーダーとなって、出所者が再犯しないように、つまりさらに犯罪被害者を生むことがないように、そして自分の人生をこれ以上台無しにしないように、更生の手伝いをしている」という話を聞いたときに、ああ、そうかと。泉さんのやっていることは、大きく括れば「人を大事にする世の中をつくる」ことなのだとわかりました。

 明石市は、犯罪に遭った被害者・御遺族に対して全国で初めて賠償金の立替え制度もつくりましたし、併せて、罪を犯した側についても全国で初めて更生支援、やり直し支援の条例をつくりました。これは真逆のように見えて実は一緒であって、まちの安全安心をつくっているんです。

今、お話しされた、少年Aの酒鬼薔薇事件の被害者のお父さんの土師さんは、明石に御縁があって、私も近しくて長い付き合いですが、「今、自分は被害者遺族の立場だけれど、本当の被害者支援とは、犯罪加害者の孤立化を防ぐことではないか。刑務所帰りの人をあっち行けと排除すれば、また新たな犯罪、被害者を生むことになるから、一緒に更生を手伝いたい」と言ってくれまして。

もうひとり、別の事件の御遺族も同じようなことを言われた。精神障害者による犯罪でしたが、精神障害者を孤立させるとまた同じような事件が起こりかねないと、精神障害者支援のNPOに寄付しているんですよ。

つまり、より安全なまちをつくるには、あっち行けではなくて、一緒にやろうの方がいいという考え方です。そのお二人を中心に明石市も動き出して、法務省の協力も得て、条例を制定した。明石市の子ども施策が目立っていますけど、根っこのところは、みんなで包み込むまちづくりをしていると。これが子ども施策でも生きているのだと思うんですね。