昔の上司の誘いで、仕事に復帰

かつての職場(ゲームセンター)の上司から電話があったのは、高梨さんの意識が変わり始めたころだ。その上司は高梨さんがリストラされる前に系列店に移動したのだが、「人手が足りないから、うちの店で働かないか」と声をかけてくれたのだ。

「ちょっと癖があるけど面倒見のいい人で、僕とも仲がよかったんです。本当は自信がなかったけど、『お前ならできる』と言われて、『はい』と」

最初は週1日から働き始め、徐々にシフトを増やしていった。時給は年に10円ずつ上がったのでリストラ前は930円だったが、出戻った後は、また一番下からのスタートになった。

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3、4年すると、誘ってくれた上司は転勤でいなくなり、次に来た店長からパワハラを受けた。その後、高梨さんは最初に働いていた店に戻ることに。店長はいい人だったがヘッドハンティングされて辞めてしまい、新たに来た店長はまたもや最悪だった。

「なんか、パワハラくらって、次はいい人。またパワハラくらって、次はいい人。ずーっとそんな感じですね、ハハハ。いい店長はいつも笑っていて、僕がお客にクレームくらった時も一緒に謝ってくれる。フォローもしてくれるし、苦手な作業は『ゆっくりやっていいよ』と言ってくれる。やっぱり、理解されているという安心感は何物にも代えがたいものがあるし、この人のために頑張って働こうという気持ちになりますね」

一方、パワハラ店長には、どんな仕打ちをされたのか。

「何で嫌われていたのかわかりませんが、僕があいさつをしても無視する。報告書を持って行っても返事もしない。『お客さんが店長来てくださいと言っています』と伝えても、完全に無視ですよ。だから、こいつのためには働きたくないっていう気持ちになって、残業とか頼まれても『ダメです』と断る。で、さらに嫌われるっていう悪循環ですよね」