「奪還!の巻」(ジャンプ・コミックス第10巻収録)

今回は、派出所にイケメン警官、中川圭一をフィーチャーした『こち亀』最初期の超異色作をお届けする。

皆さんご存じの通り、中川は世界屈指の大企業体「中川グループ」の御曹司で、徹底した富裕層で帝王学を叩き込まれて育った若者だ。だがそれにもかかわらず警察官という公務員の職を選び、さらには大卒だが幹部候補への道には進まず、一巡査として派出所勤務をしている。

中川は『こち亀』第1話「始末書の両さんの巻」(ジャンプ・コミックス第1巻収録)で、派出所に配属されて登場したキャラクターだ。

最初期の彼は、基本的には両さんと一緒に遊びほうけており、時には両さんをも呆れさせるほどのスチャラカキャラクターだったことは、古参ファンにはよく知られている。これは『こち亀』が登場した1976年という時代性によるところも大きい。

日本の高度経済成長が一段落し、学生が社会的変革を求めた学生運動の日もすっかり消え果てた1970年代後半、若者は、政治や世相への関心が薄い「しらけ世代」と呼ばれ、「無気力・無関心・無責任の三無主義」と嘆かれた。

若者に画一的なレッテルを貼り語るのは、いつの世でも変わらない。1980年代に入ると、個人主義的でありながら社会の仕組みや流行に追従する若者を、世間は「新人類」と囃し立てた。

初期『こち亀』を読むと、中川のキャラクター造形は、こういった、世間が「現代の若者」に貼った「レッテル」を強調して行われているように思える。

中川はその後、両さんと無二の相棒になるとともに、気の良さや常識を備えた好青年になっていく。

加えて1980年代半ばからは、泡のように膨れたバブル景気のもと、レジャーやデートに大人顔負けのお金を費やすバブル世代の象徴のような、スーパー金持ち属性を与えられていく。

「おなかが痛い中川くんの巻」(ジャンプ・コミックス第141巻収録)より
「おなかが痛い中川くんの巻」(ジャンプ・コミックス第141巻収録)より

その一方で、警官の職務に真面目に取り組みながら青年企業家としても活躍する、多様性のある生き方をする青年像の先駆けとなっていった。

「イケメン・金持ち・有能」の「三高」を備えたパーフェクトイケメン化したわけだが、彼はそのポジションには留まらない。次第に、体を張ったギャグをこなし弱みも見せる、より親しみ易く魅力的なキャラへ進化していった。

さて本作は、中川が強盗事件に遭遇し、警察官としての葛藤を抱くことになる『こち亀』きっての異色作だ。画風、ストーリーともに劇画タッチでハードなタッチで統一されている。

なお『こち亀』は、作者・秋本治先生の最初期構想によれば、ニューヨーク市警に勤務する中川が主人公だった。両さんは、主人公を取り巻く日系人という設定で、脇役だったのだ……。

こういった事情を知った上で本作を読むと、またひと味、読後感が変わるかもしれない。

「両さん誕生㊙物語」(Kamedas収録)より
「両さん誕生㊙物語」(Kamedas収録)より

それでは次のページから、中川を主役に据えた異色のハードボイルド展開を見せるお話をお楽しみください!!