今後の匿名犯罪の潮流を変える可能性

さらに、犯罪者にとって安全性が高く、証拠が残らないとされるテレグラムですが、万全ではないようです。JNNの2023年2月2日のニュースには、次のような証言があり、テレグラムのメッセージを警察が解析したと言います。

「(携帯電話を)警察で押収して解析を行なう。(指示役は)サーバにはデータが残らないと話していたが、実際にやりようはいくらでもあるらしく、調書を取る際に私の携帯電話のデータを復元した画像を見せられ、『こういうやりとりをしたんだね』」と。

筆者も実際にテレグラムを使用していた元暴力団に話を聞いてみましたが、そこは裏社会の人間がやることですから、テレグラムの内容を残す工夫をしていたようです。

「私も昔はテレグラムやシグナルを使ったことはあります。確かに、一定時間経過したら自然にメッセージは消去されますし、スクリーンショットを撮ったら、画面が真っ黒になります。だから、俺らは他の携帯で画面ごと写メしていました(送信相手が送ったテレグラムの内容を担保取るため)。だから、メッセージが自動消去されるといっても、あまり信用していなかった」と言います。

そうした抜け道を踏まえて、この元暴力団員は、「犯罪をするとき、一番安全なのは、携帯での通話です。通話記録は残りますが、内容は残りません」と言います。日常的に通信を傍受されていない限り、携帯通話が安全というこの主張には、一理あるような気がします。

「オレオレは日をまたぐとダメなんです。本チャンの息子に電話する可能性があるでしょ?」詐欺電話の実態を知る半グレの証言_3
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首都圏を中心に全国各地で発生した広域連続強盗事件で、指示役とされる渡邉優樹容疑者らが利用していたスマホやタブレット端末など15台が警視庁に提供されていると報道されています。警察による通信内容の復元が、この事件の捜査のカギになると同時に、今後の匿名犯罪の潮流を変える可能性があるのです。

闇バイトの実態と勧誘システム
元愚連隊タタキ専門だった山田氏の証言
増え続ける外国人半グレ組織

文/廣末登
写真/shutterstock

闇バイト 凶悪化する若者のリアル (祥伝社新書 683)
廣末 登
「オレオレは日をまたぐとダメなんです。本チャンの息子に電話する可能性があるでしょ?」詐欺電話の実態を知る半グレの証言_4
2023年7月3日
¥1,023
224ページ
ISBN:978-4396116835
「闇バイト」がなくならないワケとは?

二〇二三年一月一九日、東京都狛江市に住む九〇歳の女性が自宅で殺害されているのが見つかった。女性の遺体には激しい暴行の跡が見られ、これまでとは次元の違う強盗殺人事件として世間を震撼させた。
本件をきっかけに注目を集めたのが、「闇バイト」といわれる犯罪だ。指示役に集められた素性のバラバラな集団によって行なわれる犯罪で、同種の事件は後を絶たない。

中でも詐欺よりも手っ取り早く稼げる「タタキ(強盗)」の増加が危険視されている。本書では、非行経験のある犯罪学者が当事者たちを取材。

闇バイトを取り仕切る半グレや犯人の更生に従事した保護観察官の声から見えてくる、その真実とは。最終章では、闇バイトを生み出す日本社会の闇を分析。失うもののない「無敵の人」を生み続ける構造に警鐘を鳴らす
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