防大は「惰性と同調圧力に満ちた場所」

任官辞退者の本田さん、現役学生の立花さんが口にしたのは――防大のガバナンスが「法治」ではなく「人治」に傾斜しているという――等松教授の告発に通ずる指摘である。

等松教授は学生間指導を「悪しきリーダーシップ」の産物と見ていたが、問題はさらに根深い。ふたりの証言からは、悪しきリーダーシップというより、防大執行部や事務官、指導官たちの無責任な人治のツケが、学生たち(学生間指導)に回されている実態がうかがえる。

防衛大学校 走水海上訓練場
防衛大学校 走水海上訓練場

苦労の絶えない学生舎生活をやり抜いた本田さんやその同期たちが、揃って幹部候補生学校に進むことを“辞退”した理由は、決して“軍隊”が怖くなったからでも、学費の免除が目的だったからでもない。防大の「人治」に翻弄され、疲れ果ててしまったからなのではないか。

「多くの指導官は、自分の任期交代まで平穏に過ごせればそれでいい、と考えているのでしょう。自分の監督不行届きということにされたくないために、学生をなだめ、次年度の中隊替え、卒業を待つ。それも仕方のないことだと思います。ひとりで対抗するには、あまりにも惰性と同調圧力に満ちた場所です。

私が、4年間あの場所にいて思ったのは『はたして、ここは何を育てたいのだろうか』ということでした。学業時間の確保とか一斉喫食や清掃が辛いといった、そういったことも問題なのかもしれませんが、『どのような学生』を育て、『どのような能力』を身につけさせたいのかの方針を明確にしないまま『学生間指導』などというものを要求するから、指導官も上級生も困惑するのだと思います。

今のカリキュラムのままでは、幹部候補生学校に進んだとき、知性や教養では一般大学からの入校者に劣り、戦技では部隊の曹士の皆さんに劣る、という、いかにも中途半端な卒業者が量産されるだけになってしまうのではないでしょうか」(本田さん)