あえて低くしたハードルと圧巻のテクニック

表題の『パルプ・フィクション』とは、20世紀半ばに流通していたチープな文学雑誌、パルプ・マガジンに掲載されていた作品のこと。典型的な西部劇や冒険活劇などのフィクションで、安価なパルプ紙に印刷されて市中に出回ったという。

本作もくだらないジョークや古びた音楽・ファッションなどのモチーフがふんだんに織り交ぜられているが、それらを回収するストーリーの緻密さ、あえて低くしたハードルを跳び超えていくような、極めつけのテクニックに惹き込まれた。

1994年度のアカデミー賞では7部門にノミネートされ、見事、脚本賞を受賞。
ちなみにこの年の作品賞は『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994)が受賞している。

ストーリーの明快さや大衆受けの観点から考えると『フォレスト・ガンプ』が作品賞だということは納得だが、『パルプ・フィクション』はこの年のダークヒーロー的な存在であったことが窺える。

イタリアの名作映画『8 1/2』(1963)をオマージュしたヴィンセントとミアのダンスシーンや、麻薬の売人・ランスが着ていた日本のテレビアニメ『マッハGoGoGo』(1967〜1968)のTシャツなど、随所に散りばめられた遊び心からも、公開当時、マニアたちの熱い支持を得ていたのだろうと想像した。

チープな物語を装いつつも抜かりないこだわりを詰め込んでいる本作。

暴力を正当化する一方で、そこから変化しようと努力した者だけが救われる「罪と罰」が丁寧に描かれている。一見アウトサイドに見えるが、最後はスッキリとした余韻を残す作品だった。

文/桂枝之進

『パルプ・フィクション』(1994)Plup Fiction 上映時間:2時間34分/アメリカ
強盗を企てるパンプキン(ティム・ロス)、冴えないギャングのヴィンセント(ジョン・トラヴォルタ)とジュールス(サミュエル・L・ジャクソン)、そのボスの妻・ミア(ユマ・サーマン)、命知らずのボクサー、ブッチ(ブルース・ウィリス)らのドラマがオムニバス形式で展開されるクエンティン・タランティーノ監督作。カンヌ国際映画祭のパルム・ドールを受賞し、アカデミー賞では7部門にノミネートされ、脚本賞を受賞した。