「やさしい職場作り」という美辞麗句

発達障害といじめの関連性は、職場の立場によって別の現れ方をする。彼らの中には一つのことにこだわりを持ったり、集中力を爆発的に発揮したりすることによって、優秀な成績を出す者も少なくない。だが、それゆえ、会社が彼らを評価して、管理職に移した時、別の問題が起こることがある。これは都内に住む男性の体験談だ。

「IT関係の仕事で、僕の発達特性に合っており、成績は優秀でした。けど、30代半ばで管理職になった途端にうまくいかなくなった。部下とうまく付き合えないので、『パワハラをしている』とか『部下にきちんと指示を与えない』とか言われ、離職者が相次いだのです。

そのせいで降格させられただけじゃなく、役員から5年近くにわたってずっと悪口を言われたり、異動を命じられたり、給料を下げられたりして、最終的には退職に追い込まれました」

一人で黙々と仕事をしている分にはよかったのだが、管理職になってコミュニケーション能力が求められるようになった途端にうまくいかなくなったのだ。

この男性にしてみれば、管理職への登用は甚だ迷惑だっただろう。本来はその前段階で、会社がきちんと彼の特性を理解し、適材適所の人事異動をしていれば、こんなことにはならなかった。役員がその非を認めず、問題が起きてから、彼をいじめることは道理に反すると言わざるをえない。

ここからわかるのは、発達障害のある人間はその立場によって、被害者にもなれば、加害者にもなるリスクがあるということだ。それが個々のトラブルでおさまっている分にはまだしも、今回紹介したように自殺、肉体関係の強要、辞職にまで発展すれば、看過できる問題ではなくなる。今回、取材した職場いじめの被害者の一人は次のように話していた。

肉体関係の強要、パワハラ…職場いじめの対象へと発展しかねない、大人の発達障害にみられる6つの特徴_3

「会社は〈誰一人取り残さないやさしい職場を作る〉なんてきれいごとを言います。でも、本音は、社員みんなが一人二人の発達障害者に合わせれば、自分たちが逆に働きづらくなるし、利益を上げることもできなくなるということでしょう。それならいっそ、そんなきれいごとなんて言わなければいいのにと思います」

少なくとも、この人の目には「やさしい職場作り」は美辞麗句を並べただけの偽りの言葉にしか聞こえないのだろう。それに対してどう答えるのかは、職場それぞれの意識と判断に委ねられている。

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取材・文/石井光太

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