「キノコ雲」をシンボルマークにする学校も
このワーナーの公式リアクションが、被爆国・日本のSNSで大炎上したのは言うまでもない。「許せない」、「悲しすぎる」、「同じことをホロコーストや9.11をネタにやれるのか」と、#NoBarbenheimer(バーベンハイマーにNO!)の声がSNS上にあふれかえったのだ。
すると、ネット世論の逆風を見てあわてたのか、7月31日にまずはワーナー・ブラザース・ジャパンが公式X上で、「この事態を重く受けとめ、アメリカ本社に然るべき対応を求めていきます」と陳謝、続いて翌8月1日に今度は米ワーナーブラザーズ本社が「SNS上での配慮に欠けた対応を遺憾に思います。深くお詫びいたします」(...The studio offers a sincere apology.)と謝罪を発表することに。
ただし、その謝罪は必要最低限の、極めて短いものだった。英語の「apology」はあらたまった文脈ほど「誰に対して」、「何について」の2つの目的語が付いてくるものだ。しかし、米ワーナー本社の謝罪文にはその目的語が明記されていない。
しかも謝罪は公開文書やSNS上でなく、各メディアへの個別リリースで、米国内消費者への影響を配慮した形だった。『バービー』は『オッペンハイマー』との同時公開や、#Barbenheimerなどのマーケティング展開が功を奏してか、公開週末の全米興行収入は歴代4位と大ヒットしており、この勢いにケチがつくのが嫌だったのだろう。
とはいえ、日本人としてはなぜ、アメリカでキノコ雲がミーム化(知名度のなかった特定の言い回しや画像が、何かのきっかけでマネされる対象として拡散していくこと)され、バズるのか? また、米大手映画会社がなぜ、そうした動きに加担できるのかは、気がかりなところだろう。
じつはキノコ雲や原爆はデザインやネタとして、戦後アメリカのポップカルチャーの「伝統芸」となってきた事実がある。
1950年代、アメリカではいくつかの「ミス・アトミック・コンテスト(ミス原爆)」が行われた。本当のミスコンではなく、今で言うプロのキャンギャルが選ばれるラスベガス中心の街おこしイベントだった。こうしたイベントではキノコ雲に見立てた白い綿を飾りつけた水着やワンピースを着たブロンドの白人美女が白い歯を見せて微笑むというシーンが定番化していた。
最近では2019年に米ワシントン州のリッチランド高校に留学していた日本人高校生が、校章のキノコ雲に疑問をもったというニュースもあった。
同校のシンボルマークにキノコ雲が使われていて、運動部の他流試合では必ずキノコ雲マークの入った応援旗が大々的に振られる。同校はマンハッタン計画の拠点のひとつに近い場所にあるため、住民はキノコ雲に誇りを持っているというものだった。