こどもたちからのSOSに誰が対応するのか
2021年3月2日、私が共同事務局を務めている、Children Firstのこども行政のあり方勉強会に、船戸結愛さんの香川県での主治医だった、木下あゆみ先生(国立病院機構四国こどもとおとなの医療センター小児アレルギー内科医長)に来ていただき、小児科医から見た「子ども虐待」について、説明をもらいました。
船戸結愛さんは、2016年に香川県に住んでいた頃から虐待を受けていました。結愛さんと木下先生が初めて会ったのは、2回の一時保護の後。週に1、2回、母親の相談にものりながら、結愛さんの診察をし、児童相談所や警察とも連携をとっていました。
ところが2018年、一家は東京へ転居することになります。最後に「先生、また、夏休みに来るね」と手を振って帰っていった後、東京の児童相談所にケース移管されました。先生は、結愛さんが心配で東京の児童相談所に直接連絡を入れたそうですが、その時まで、児童相談所の職員は結愛さんに会えていなかったということです。このようなケースでそれだけ長い期間会えていなかったことに大きな危険を覚えますが、転居後の状況を知る術はありませんでした。先生が、結愛さんのその後を知ったのは、両親から虐待をうけ亡くなったという報道を通じてでした。
しかし、先生から見ると、転居前の結愛さんのようなケースは、度々あるケースであり、特別に対応が悪かったわけではなかったと言います。
「私たちは、ぱっと見小さなケガですが見逃してはいけない大事な所見、こどもの言動や、親子の様子などを注意深く診ています。虐待かもしれないケース、もっと手前の育児支援が必要なケースは本当にたくさんあり、ニュースになっているのはほんの一握りなんです。しかし、結愛さんのケースでどこが問題だったかと言えば、医療機関と児童相談所の虐待の重症度判断の差や、県外に引き継ぐ際に県ごとにやり方が違ったために隙間ができてしまったこと。それにより、綻びが出て命を落としてしまうことになったということです」
現場では、こどもの為に一生懸命になっている大人が大勢いるにもかかわらず、転居を繰り返すことで、自治体間で情報が分断されうまく引き継がれない。行政の問題でこどもの命が守られていない現状を目の当たりにしました。
#2 自慰行為強要、動画流出、自殺未遂…それでも教育委員会は「いじめ」と認定しなかった旭川女子中学生いじめ凍死事件は「こども庁」が必要だと考えた理由のひとつ
#3 「川遊びしていた子供が溺れて死亡しました」毎年夏になると発生する不慮の水難事故死…再発防止に何が必要なのか?
文/山田太郎