家族関係社会支出は先進国の中でも最低の日本

こうした問題に対応するのは児童相談所や、警察、教育委員会や学校などさまざまな行政機関です。

しかし、実情は、厚生労働省、内閣府、文部科学省、法務省、警察庁といくつもの府省庁にわたって担当分野がバラバラです。府省庁の複雑な縦割り構造の中で、問題が起きても解決のプロセスや責任者が明確でないという現実がある――同時に、現場は担当者の人員不足、専門家の人手不足で、誰も、こどもたちの問題に責任を持って取り組むことができない状況が、長く続いていたのです。

これはまさに政治の責任以外のなにものでもない。法律と行政の不備のために、この時代の日本に生きているこどもたちの命が守られないなんて、許されることではありません。

経済協力開発機構の調査では、日本のGDPに対する「家族関係社会支出」割合は、2019年度で1・74%。これは、先進国の中で最低のラインとなっています。家族関係支出と教育費支出をそれぞれ他国と比較しても、こども政策に使われている予算が非常に少ないことがわかります。

ただやみくもに予算を増やせばいいということではありませんが、欧州並みの3%台――つまり約2倍まで引き上げるべきだと私は考えています。

政治のゆがみが招いた3つのこども虐待・いじめ事件…こどもの命が守られない日本で「こども庁」が必要な理由_2

政治のゆがみが招いた3つの事件

ここ数年、虐待やいじめによって命を失うこどもたちの事件が後を絶ちません。かけがえのない命を失ったひとつひとつの事例が、痛ましく、許されるものではありません。そんな中でも私にとって、忘れられない3つの事件があります。

ひとつは、2018年東京都目黒区で、十分な食事を与えられず虐待死した船戸結愛さん(当時5歳)の事件。
もうひとつが、2019年に千葉県野田市で父親からの激しい虐待の末亡くなった栗原心愛さん(当時10歳)の事件。
そして2021年3月に北海道旭川市で凄絶ないじめの末亡くなった廣瀬爽彩さん(当時14歳)の事件です。

上の3つの事件に共通して言えることは、最悪の事態を止められなかった大きな原因が、何よりも行政の仕組みの中にあったのではないかということです。誰も、最後まで責任を持って助けることができなかった、あるいはそうできなかった仕組みがあった――つまり政治の責任で防げなかった死だった可能性があるのです。