子どもをコントロールする親、子どもに振り回される親
行動遺伝学の原則の一つが、あらゆるものに遺伝的な差異があるということでした。ここでいえば、子どもが悪さをする程度にももともと生まれつきの差がある。ただその程度が環境によって強く出すぎることもあれば、抑えられたりすることもあると考えます。
この場合、どんな条件で子どもの聞きわけのなさや暴力的な行為やうそ・盗みなどの行為が助長されるのか、あるいは親のかかわり方でそれをコントロールできるのかということが問題になります。
ここで着目したのが、親にとって子育てのしやすさにかかわる要因の一つである子ども自身のもつもともとの多動・不注意傾向です。
多動・不注意傾向というのはいつももじもじと落ち着きがないとか、気が散りやすくて物事に集中できないといった傾向のことで、これが高じると、いわゆるADHD(注意欠陥・多動性障害)という発達障害として診断されます。この傾向があると子育てがしにくくなり、ついしつけも厳しくなりがちになるのではないか、と考えたのです。
ちなみに多動・不注意傾向も悪さをする傾向も、いずれももともと生まれつきの差はありますが、多動・不注意それ自体は悪さではなく、多動だから友達に暴力をふるってしまうとか、不注意だから盗みを働いてしまうというわけではありません。これらは違う遺伝子たちによって影響を受けており、それらは第1章で詳しくお話ししたメンデルの独立の法則に従い、互いに無関係であると考えられます。
ふたごのデータを用いると、先の学業成績に及ぼす親のかかわりの分析でも行ったように、相関する二つのできごと(たとえば「学業成績」と「読み聞かせ」のように)が遺伝によってどの程度、また共有環境によってどの程度説明できるかを分析することができます。
この子どもの問題行動と親の子育ての厳しさとの関係について、多動・不注意傾向の高いグループと低いグループで比較してみたところ、基本的にはどちらのグループでもこれらの関係には遺伝要因も共有環境要因も非共有環境要因も、いずれもが両者の関係にかかわっていました。
つまり子ども自身が遺伝的に悪さをする傾向があるから、親もそれに引きずられて養育態度がきつくなるという要素もあるし、親がもともと厳しく子どもに当たってしまう人なので子どもの問題行動が助長されるという要素もあるし、特にふたごのどちらか一方にきつく当たりがちになるためにその子の問題行動が助長されるという要素もありました。