みんなが負ける負け戦が続く
池上 この先、この戦争はどうなっていくのか。ウクライナとしてはロシアを国内から追い出すまでは戦争を続ける。一方で、プーチン大統領にしてみれば、ドネツクやルハンスクなどウクライナ4州をロシア領として「併合」した以上、そこから撤退することはできない。
アメリカも、この戦争から抜け出すことは難しい。ヨーロッパ諸国もロシアへの経済制裁をした結果、天然ガスが入ってこないなどさまざまな経済的打撃を受けている。
結局、この戦争に勝者はいない。延々と、みんなが負ける負け戦が続く、そんな未来が来るのではないでしょうか。
トッド この戦争が始まったとき、私は地政学の本を書き始めていました。そのとき世界は中国対アメリカという構図で見ることができると考えていました。しかし、アメリカの生産力がひじょうに弱まっていることや、中国も出生率がひじょうに低下していることから、その構図で世界を見るのは正しくないことに気づきました。
私は焦点をロシアに移していきました。すると、ロシアは保守的ではありますが、たとえば乳幼児死亡率がいまはアメリカを下回るなど、社会としてある程度安定した国であることが見えてきました。
ただ、人口は減少傾向にあり、ロシア的な帝国主義を世界に広めていくほどの勢力ではないことにも気づきました。そして中国も同様に出生率が低下しているので、これらの国がこの世界システムのなかで問題なのではないということに気づいたんですね。
一方、ヨーロッパは、混乱しつつも、社会的にはまあまあ安定しているといったような姿に見えてきました。
そして、イギリスが危機的な状況にあるということから、アメリカの問題にも向き合うことになったんです。
世界のシステムを考えていくうえで、どの国が問題なのか。世界が不安定化していくその中心にあり、世界がこれから先に向き合わないといけないのはアングロサクソン圏、とくにアメリカの「後退のスパイラル」なのだということに気づいたんです。問題はロシアでも中国でもなく、アメリカなのです。