潮目を変えた池ちゃんの登場
――その点、単行本7巻5話から登場した「池ちゃん」は、「巧みな言語化力」への憧れをコミカルに具現化したキャラクターですね。
池ちゃんは映画マニアに憧れて長文のレビューブログを書くも、その薄い内容ゆえ誰にも読まれず焦燥感を感じ、流行作を追い続ける大学生です。2017年の連載開始当時、映子や部長(映子が所属する「映画について語る若人の部」部長・小谷洋一。主にツッコミ役)は一見特別な才能や能力のない「ただの映画好き高校生」でしかなかったのですが、2022年においては“熱中できる趣味について、その魅力を言語化できるキャラクター”でもあるわけです。そこで、“言語化できない側の人間”を今出したら面白いのでは?と生まれたキャラが池ちゃんなんですね。
池ちゃんのようなキャラクターって普通はもっと嫌なやつだと思うんですが、逆に素直に“できない側の人間の苦悩”を口にできるところが今の読者の共感を呼び、愛されているのかもしれません。僕も当初は彼を1話のみのゲストキャラにしようと思っていたのですが、あまりに反響が大きかったので今では準レギュラークラスの人物になっています。池ちゃんのように、大量の情報で「自分が何が好きか」を見失ってしまう人間には、映子や部長のように熱中できるものがある人間が輝いて見えるんじゃないかと思います。
――映画に限らずコンテンツがあふれる現代で、「自分は何が好きなのか」を見失う若者は多いと思います。
新しい娯楽に手軽に手を伸ばせる時代では、「好き」ということと「知識が豊富」ということが混同されがちです。しかし本来、見た映画の本数が少なくても映画好きを公言していいはずですし、かくいう僕も映画マニアに比べたら見ている数は足元にも及ばないはず。ただ“クセつよ邦画”を見続けているうちに妙に詳しくなり、それがたまたまこうして仕事につながったというだけなんです。
ですので、「これも見なきゃ」「まだあれも見ていない」と焦りながらコンテンツを消費する必要はないと思うんです。「うまいこと」を無理に言おうとせず、ありきたりな感想をSNSでつぶやいてもいい。飽きたら休んで、ほかの趣味に手を出してもいいんです。映画に限らず「趣味」というものは本来、結果ではなく過程を楽しむことで人生を豊かにさせてくれるものですから。
『邦キチ!』最新話は、こちらのサイトから!
コミックサイト「COMIC OGYAAA!!」
https://comic-ogyaaa.com
画像/すべてホーム社
取材・文/結城紫雄