ヒグマはそこにいる。自然の中では「バッタリ遭遇」を避けるような行動を
さてヒグマの生態はというと、その寿命は30年前後といわれ、オスの成獣で200㎏前後、最大で500㎏を超える個体もいる、日本でもっとも大きい陸の動物だ。
行動範囲はメスよりもオスのほうがかなり広範囲で、嗅覚は犬の6倍。匂いを頼りに季節の食べ物を探して歩き、食性は植物質に偏った雑食。山菜、木の芽や実のほかアリやハチなどの昆虫、山中でシカなど動物が死んでいれば積極的に食べる。川に遡上するサケマスも食べるが、河口で人が捕獲してしまうので、それにありつけるヒグマは知床など限られたエリアだという。
「ヒグマはもともと慎重で臆病。人を避けてくれる動物です。クマ研究者の常識としては、ほとんどが『人を避けるクマ』です。しかし、朱鞠内湖の事例のような個体は人を避けない『ヤバいクマ』。こうした人を避けないクマは稀にいます。ヒグマは大型で力が強いので、状況によっては遭遇すると彼らも驚いて威嚇攻撃をしかけてくるので、死亡事故になる確率も高くなる。そのような問題個体は、一刻も早く駆除しなければなりません」(坪田教授)
北海道も含めて全国的にこれから本格的な夏のレジャーシーズン。キャンプ場や付近の森などに入った場合、そこに必ずクマはいると意識することは大切だ。
坪田教授は続ける。「7~9月は餌資源が乏しく、ヒグマが痩せ細る時期。しかしそれが彼らの年周期なので、特別いつもよりも危険ということではないです。通常、活動時間帯は〝薄明薄暮型〟といわれているので、明け方と日暮れ時にはとくに気をつける。山中など見通しの悪い場所、藪の中などにヒグマが隠れていることを常に想定し、クマ鈴や声出し、手をたたくなど、先に人の存在を知らせる工夫をして『バッタリ遭遇』を避けることが基本です」
もしもヒグマと「バッタリ遭遇」してしまった場合。その場の状況やヒグマの出方によって対処法はさまざまで正解はないが、まずは落ち着いてクマの様子を見ながら、背中を向けずにあとずさりし、ゆっくりと距離を離すこと。背中を向けて逃げるとヒグマは素早く動くものに反応するうえに、弱者は倒せると思いこんで背後から襲ってくる可能性がある。
例えば威嚇突進攻撃(ブラフチャージ)をしてきても、クマは臆病なので直前で踵を返すことが多い。しかし本当に襲ってきて逃げきれない場合は、こちらも強気で威嚇すること。もし、クマ撃退スプレーを携帯していたら5~6mの射程距離で鼻先めがけて噴射する。最終的には腹ばいになって頭・顔を守り、首の後ろを手で守る防御姿勢をとってケガを最小限に食い止めたい。