下北半島の最奥地で見たニホンカモシカとツキノワグマ
“みちのく犬連れひとり車中泊の旅”に出てから4日目の夜。
21時頃だった。
僕は青森県にいて、本州最北端の大間崎を目指し、下北半島を貫く国道338号線をひた走っていた。
深い深い山道で、もうかれこれ1時間以上、対向車とすれ違っていないし、先行車にも後続車にも会っていない。
道の両脇には、深山幽谷が広がっている。
心細いドライブだったが、ローカルラジオ局ののんびりしたトークと相棒の犬に癒され、励まされながら、僕はひたすら、車中泊仕様に改造したオンボロスズキエブリイのアクセルを踏んでいた。
そいつは、下りの左急カーブを曲がった先にいた。
粉う方なき、どっからどう見ても明らかに、めっちゃクマだった。
国道のど真ん中に悠然と座っている。
けっこうデカい。
首元の白い半月状の模様がはっきり見えた。
こちらは車の中なのだから安全なのはわかっていても、生まれて初めて野生のクマを間近に見ると、気持ちがひるんでしまうものだ。
クマを恐ろしいと思う気持ちは、日本人のDNAにデフォルトで刻まれているのだろうか。
急ブレーキをかけ、息を飲んで見ている僕の車のヘッドライトに照らされたクマは、「めんどくせ」という感じでのそりと立ち上がると、ガサゴソと道の脇の草むらに分け入り、山へ帰っていった。
邂逅は、ほんの一瞬だったのだ。
ああ、ビックリした。
と、一息ついて気づいた。
しまった! 写真を撮っていない!
この車にはドラレコもない!
遭遇の証拠を見せられないのが非常に残念だ。
山道を走っている間、恐らくテンかイタチ、あるいはタヌキもいたかもしれないが、そういう小さめの野生動物はひっきりなしに目撃した。
そして、ニホンカモシカも2回。
スマホでとっさに撮ったので写りはとても悪いが、ニホンカモシカの写真を見てほしい。
そしてクマさんに出会ったという話も、ホラではないと信じてもらいたい。
それにしても、下北半島というのはなんというところなのだ。
山道とはいえ整備された立派な国道に、ニホンカモシカやツキノワグマが、普通にウロウロしているとは。
まさに秘境だ。
同じシモキタといっても、下北沢とは大違いだ。
さて、僕がこんな夜に下北の山道を必死で走っていたのには、ちょっとした理由があった。