イタリア、スペインほか平均賃金が増えない国の共通点
では、日本を抜いていく中東欧の国々と日本の違いは何であろうか。それは、円安もあろうが、成長する国と成長しない国の違いである。残念ながら、日本は成長が止まった状態が長く続いて、平均賃金が追い抜かれた。
OECD加盟国の平均賃金の推移を見ると、ほかにも日本と同じように平均賃金が増えない国があることに気づく。イタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシャである。南欧諸国の4か国は、日本に似ている。
日本と南欧4か国の共通点は、まず政治的基盤の類似性が挙げられるが、それを除くと人口高齢化率が高いことである。日本は世界一で28.7%(直近2022年12月29.0%)。それに続き、イタリア(23.6%)、ポルトガル(23.1%)、スペイン(20.3%)となっている。
この高齢化率は、その国の平均年齢とも重なる。日本は、全人口の平均年齢(中央年齢)は48.4歳(2020年)で、世界一である(国際機関の比較データでは、55.4歳のモナコが1位で、日本は2位というものもある)。
平均年齢が上がると賃金が下がる理由は、賃金の低いシニア労働者が多く労働参加していて、その人たちが非正規形態、あるいは自営業で働いていることの反映だろう。同じようなことが、南欧諸国にもきっとあるのだろう。
翻って、日本は、人口が減少しているからこそ、生産性を引き上げて同時に平均賃金も上げなくてはいけない。そうしなければ、人口×一人当たり所得=総所得は増えていかない。生産性とは、「稼ぐ力」だ。
しかし、人口減少と同時に起こっている高齢化は深刻だ。人件費に占める7割強の部分は、中堅・中小企業である。この中小企業こそ、従業員の高齢化が進んでいる。従業員が高齢化しても、その中小企業が年々、生産性を上げられるように、政府は、成長戦略を考えなくてはいけない。
文/熊野英生 写真/shutterstock
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