「金融抑圧」こそ円安が続く理由のひとつ

これはイギリスだけに特有のことではない。米国でも、第二次世界大戦で発行した国債残高の利払いを軽減するために、FRBは財政に従属して、国債価格維持を継続した。ようやく、1951年に政府とFRBの協定(アコード)が結ばれて、FRBの独立性が果たされた。

日銀も、高橋(是清)財政で国債引き受けを決定して、2・26事件以降は軍事費を国債発行で捻出する体制に組み込まれた。税収に基づかず、急増する軍事費を賄えるようにバックアップしたのだ。

今後の日本経済を考えると、最悪の場合、第二次世界大戦後のイギリスや米国と同じような運命を辿る可能性があると考えられる。ハイパーインフレや長期金利の急上昇というマーケットの反乱が起こるのは、「ハードランディング・シナリオ」だ。仮に、それを避けられても、じわじわと円安が進み、インフレ課税が長期間にわたって続くというシナリオに追い込まれる蓋然性は高い。

日本人の賃金が上がらないのは本当に高齢化だけが原因なのか? 「金融抑圧」と「インフレ課税」立ち向かうただひとつの方法_3
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実は、この金融抑圧が、私たちを円安に陥れている原因の一つだ。経済学の教科書では、インフレ期には通貨が減価すると教えられる。ならば、2022年のようなときは、欧米の方がインフレ率が高いのだから、ドル安・ユーロ安になり、円高になるはずだ。

しかし、現実はそうならなかった。ドル高、円安になった。理由は、米国が利上げをして、日本は利上げできなかったからだ。欧米の国民は、インフレ課税の資産目減り分を中央銀行の利上げによっていくらか取り返せていると言える。

問題は、私たち日本人の金融資産運用を金融抑圧の下でどうするかだ。円資産は、高い利回りが期待できないとなると、やはり海外金利で運用するしかない。欧米各国は、インフレに応じて利上げを進めている。利上げができない日本に対して、海外では利上げをしている。ならば、私たちも運用資産の一部を海外にシフトさせるしかない。

文/熊野英生 写真/shutterstock

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インフレ課税と闘う!
熊野 英生
日本人の賃金が上がらないのは本当に高齢化だけが原因なのか? 「金融抑圧」と「インフレ課税」立ち向かうただひとつの方法_4
2023年5月26日発売
1,980円(税込)
四六判/344ページ
ISBN:978-4-08-786138-9
もはやインフレは止まらない!
これからの日本経済、私たちの生活はどうなる?

コロナ禍やウクライナ戦争を経て、世界経済の循環は滞り、エネルギー価格などが高騰した結果、世界中でインフレが日常化している。2022年からアメリカでは、8%を超えるインフレが続き、米国の0%だった金利は5%を超えるまでになろうとしている。世界経済のフェーズが完全に変わった!

30年以上、ずっとデフレが続いた日本も例外ではなく、ここ数年来、上昇してきた土地やマンションなどの不動産ばかりでなく、石油や天然ガスなどのエネルギー価格が高騰したため、まずは電気料金が上がった。さらに円安でも打撃を受け、輸入食品ばかりではく、今や日常の生鮮食品などの物価がぐんぐん上がりだした。2021年までのデフレモードはすっかり変わり、あらゆるものが値上げされ、家計にダメージが直撃した。

これからは、「物価は上昇するもの」というインフレ前提で、家計をやりくりし、財産も守っていかなければならない。一方、物価の上昇ほどには、給与所得は上がらず、しかもインフレからは逃れられないことから、これはまさに「インフレ課税」とも言えるだろう。

昨今の円安は、海外シフトを進めてきた日本の企業にとってもはや有利とは言えず、エネルギーや食料品の輸入が多い日本にとっては、ダメージの方が大きい。日本の経済力も、かつてGDPが世界2位であったことが夢のようで、衰退の方向に向かっている。日銀の総裁も植田総裁に変わったが、この金融緩和状況はしばらく続きそうだと言われている。

しかし日本経済が、大きな転換点に直面していることは疑いもない。国家破綻などありえないと言われてきたが、果たして本当にそうなのか?
これから日本経済はどう変わっていくのか? そんななかで、私たちはどのように働き、財産を築いていくべきなのか?
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