若人よ、くよくよせよ
――暗黒の20代があったものの、諦めずに演劇を続けてきた結果、佐藤さんは31歳でチャンスを掴みました。何か目指すものがある若者には、続けていれば人生何が起こるかわからないと参考になる気もします。
でも、「夢があるなら続ければ」って無責任なことは気軽に言えないですね。おそらく現実は続けていても花開く人は一部でしょうから。
少し前にある舞台の打ち上げで、若い俳優たちと呑んだんですね。そこには『はるヲうるひと』にミャンマー人の役で出てくれた、劇作家の太田善也もいました。
そこでも、僕は「二十数年前に自分がチャンスを掴んだから、君たちも頑張れ」とは言えなかった。頑張れ、はその通りなんですが、「ほとんどはしかばねになる。それでも、やりたかったらやりな」としか言えないみたいな。
ところが、太田は「それでも、続けていれば何かあると思う。続けていればそのなかに成功体験が出てきて、そういう経験が何かにつながる」って言うわけです。そのときは2人で、いいバランスだなと思いました。僕が「もしかしたら全員しかばねになるかもしれないよ」と言ったらなかには顔が青ざめている人もいました。でも、太田が「続けていれば、何かが起きるかもしれない」とフォローするっていう。本当はどっちもその通りなんですけどね。
――悩める若者にアドバイスを送るとしたら、どんな言葉を送りますか?
いつもこうした質問を受けると、毒にも薬にもならないというか身も蓋もない、抽象的なことを言ってしまうのですが、たとえば20代の子には「くよくよせよ」ってよく言うんです。くよくよする時期もなく、なんとなく年を重ねていく人もいるでしょうし、そういう人をうらやましくも思いますが、大概くよくよして、それがいつかいいことになるっていうようなことで、言うんですけどね。もっと現実的なことを言えたらいいんですが、なかなかそれが難しくていつも悩みます。