「学生時代には、ぜんぜん勉強しなかった」
いわゆる実務家教員【6】の線引きとして、1佐以上を教授とするところまではまだしも、文官教官が「教授/准教授/講師」の3つにカテゴライズされるのに対し、自衛官教官には「講師」のカテゴリーが存在しない(全員が、教授ないしは准教授)という形も、防大における文官教官と自衛官教官の不調和を助長しているように思われます。
その点をもうすこし掘り下げると――そもそもの話として――1991年以前に防衛大学校を卒業した幹部自衛官たちは「学位を持っていない」という事実に突き当たります。1991年まで、防衛大学校は「各種学校」の扱いで、卒業した者は「学士」ではなかったのです。
現在にいたるまで、防衛大学校に補職され、あるいは視察、講演に訪れる防大卒の将官たちは、自分自身が4年制の大学(に相当する機関)で学んでいないのですから、ひょっとすると、高度な勉学の必要性をいっさい感じていない可能性さえあります。
そして、そのような将官が視察等の名目で大学校を訪れ、学生たちに向かって、「学生時代には、ぜんぜん勉強しなかった」などと、ある人は自嘲気味に、別の人は気楽に思い出話として語るのですから堪りません。
そのような卒業生たちが、防衛大学校の図書館にせっせと「商業右翼」【7】の著作を寄贈し、次第に開架の棚が占領されていくわけです。悪いのはOBだけでもありません。大学図書館は本来、専門的な知識のある事務職員によって運営されるべきですが、あくまでも省内の人事として扱われるため、多くの職員が大学図書館の運営についての知識を持っていないのです。
防大の図書館には特設コーナーがあります。「本屋大賞の受賞作」特集や「夜寝る前に読みたいミステリー」特集などの書籍が置かれています。事務官がよかれと思って設置したのですが、それらのコーナーを設けるために、学術書の置き場がさらに減ったとなれば、それは本末転倒ではありませんか。
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【防衛大論考――私はこう読んだ】
#1 望月衣塑子:「教育者としての絶望」
#2 大木毅:「自衛隊が抱える病いをえぐり出した」
#4 石破茂:「国防を真剣に考えると疎んじられる」
#5 石原俊:「幹部自衛官の知的・学術的水準は他国と比べて・・・」
【元防大生の声】
#1 上級生が気の利かない下級生を“ガイジ”と呼びすて…
#2 「1年はゴミ、2年は奴隷、3年は人間、4年は神」
#3 「叫びながら10回敬礼しろ。何もできないくせに上級生ぶるな」
【防大生たちの叫び】
#1 適性のない学生と同室で…集団生活の“地獄”
#2 女子学生へのセクハラ、シャワー室の盗撮、窃盗事件…
※「集英社オンライン」では、今回の本記事に関しての取材対象者や情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。
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【4】集英社オンライン『危機に瀕する防衛大学校の教育#1』
【5】〈ガイジ〉なる隠語が学内で使用されているかどうかを問う、編集部の取材に対して、防衛大学校は下記のように回答した。
①インターネットを中心に、若者の間でそのような差別的な言葉が使用されることがあると承知しております。
②防衛大学校は、将来の幹部自衛官となるべき者を養成する機関であり、そのような言葉が使用された場合には、きちんと教育しております。
【6】一般には「研究」とは呼ばれない実務分野における専門家。修士や博士号を持たない新聞記者が、退職して「大学の教授」になることなど。
【7】等松春夫教授の論考『危機に瀕する防衛大学校の教育』より。