男はなぜ、これほど長く服役したのか

61年間服役していた80代の受刑者が仮釈放された。このニュースは翌2020(令和2)年9月11日に、社会を駆け巡った。熊本県の1本の地域ニュースに、ネットがざわついた。

「えっ、リアル浦島太郎じゃん」
「何をしでかしたのか、気になる」
「家とか家族とか、ないでしょ」
「変わり果てた世界に放り出されてむごい」
「この人、これからどうやって生きるんだ?」

その夜、熊本県域で放送されたのが『日本一長く服役した男』と題された番組だった。さらに、5か月の再編集期間を経て、2021(令和3)年2月21日に再びこの男の姿が日曜夕方の茶の間を席巻した。「日本一長く服役した男」という言葉は、ツイッターのトレンド・ワードの一つとなった。

この番組の取材は、一地域放送局の記者2人とディレクター1人の取材班で臨んだものだ。現場の記者の取材の気づきから提案され、徐々に放送につながっていった。だが、その過程は実に長い、曲がりくねった道のりだった。

私たちが取材を通じて直面したのは「無期懲役」という刑罰の現実だった。無期懲役とは不思議な刑罰である。有期刑のように満期が来たら自動的に出所とはならないし、かといって死刑のように生命が奪われることもない。いわゆる終身刑のように社会復帰の可能性が否定されることもないが、仮釈放が明確に約束されているわけでもない。

では、一体男はなぜ、これほど長く服役したのか。どんな罪を犯し、塀の中で何を思ってきたのか。これからの余生をいかに過ごすのか。そして無期懲役とは何なのか。

この取材はそんな刑罰を背負った一人の受刑者への密着から始まったが、私たちは次第に「罪と罰」の概念、「懲役」という刑罰の本質、それに「更生」の意味を考えざるを得なくなっていく。

なぜ61年間も服役しなければならなかったのか。「日本一長く服役した男」の生涯に見る「無期懲役」という刑罰の現実_2