1回あたり13万円までは盗み放題
筆者がそんなサンフランシスコの変貌を目の当たりにしたのは、2022年6月。パンデミック後、はじめて訪米したときだ。
久しぶりに街一番の高級ショッピングエリア・ユニオンスクエアの周辺を散策していたら、かつて高級百貨店「バーニーズ・ニューヨーク」があったビルの壁に、張り付くように立っている男性がいた。閉店したバーニーズ・ニューヨークを見て感慨に耽っているのかと思ったが、よく見るとビルの壁に立ち小便をしている。東京で言えば、銀座のような高級百貨店エリアで、だ。
シリコンバレー企業に勤める友人にこのことを話すと、2021年頃はもっとひどかったそうだ。
その友人がサンフランシスコの中心街にある雑貨店で会計をしていると、そのすぐ後ろを、両手一杯に商品を抱えたホームレスが、会計もせずに店を出ていこうとしていた。
もちろん窃盗だが、店員は諦めた様子で、大声で罵りながら会計作業を続けている。捕まえる素振りも見せなければ、警察を呼ぶこともしない。友人が「警察を呼ぼうか?」と聞くと、店員は「どうせ警察は来ない」と諦めていたという。
驚くのは、これが珍しい事件現場ではなく、コロナ禍のサンフランシスコにおける“日常”だということ。そこかしこの店で日々、同じようなことが今でも繰り返されている。
勇気ある客が窃盗犯を押さえつけて返品させたケースもあるが、その結果、暴力沙汰に発展し、殺傷事件に発展した例もある。そのため、最近ではほとんどの店員や客、さらには近くを通りかかった警官までもが、そのまま窃盗を見逃しているのだという。
サンフランシスコのあるカリフォルニア州では、2014年に悪名高き「州法修正案47」が可決した。驚くべきことに、この修正案では、被害額950ドル(約13.5万円)以下の窃盗は「軽犯罪」扱いなのだ。
それでもコロナ禍以前では、この法律が問題になることはなかった。
しかし、2021年7月に状況が一変。ロサンゼルス近郊にあるファッションディスカウントストア「T.J.マックス」で、2人組の若者が両手一杯に商品を抱えたまま、白昼堂々と会計をせず、店外に出ていく事件が起きた。その様子を捉えたビデオがソーシャルメディアで広がり、テレビでも報じられた。すると、全米規模で模倣犯が続出したのだ。
その後、ほかの地域では模倣犯による窃盗は減ったが、サンフランシスコでは、これが2023年夏現在でも続いている。